アール・ド・ヴィーヴル04/ピエト・ウードルフさんの庭への旅
アムステルダム駅を9時頃の電車に乗って2時間半。アーヘンで乗り換えてzutphenへ。
電車が遅れて、もう乗れないかと思ったバス(1時間に1本しか出ていない)に、ミラクルに飛び乗れて、そこからかつ30分。かなりの長旅。
でもあたりの景色はどんどんラブリーになって、小さな水路に野鳥が遊んでいる。夜中から降っていた雨雲もぐんぐん去って、晴れ男ぶり発揮。
グレーの空に青空が現れる。夏の名残の光が差しこんでくるが、空気はひんやりしていて、すこし肌寒い。でも、とってもさわやかで、気持ちのよい日になった。
「あと2つめのバス停だよ」と、気のよさそうなドライバーが、合図してくれる。
下ろされた場所は、広大な畑と大きな並木で、あたりに家らしきものはほとんどない。
渚(以下N)‐ 遠くまで来たけど、なんか楽しいね。
繁雄(以下S)‐ 車道歩くと危ないよ。
N- 大型トラックだらけだね。こんなに田舎で畑ばっかりなのに、庭なんてあるのかなあ。あ、そこの小道を左に入ればいいんだよ。(と、携帯のグーグルを見てる。)
S- 歩いてくる人なんてもはや誰もいないだろうね。
(途中に大型トラクターの修理工場や乳牛で作るアイスクリームの工場なども通過する。)
N- でも、どの家も庭をきれいにしてるね。(歩いて15分くらいして)あ、あれじゃないかな?ウードルフさんの家。
S- なんかかっこいい。外の木が刈り込んである。
(入り口に到着。)
N- よかった。オープンって書いてある。週に3日間しか公開していないし。
S- 吉谷桂子(ガーデナーで80年代からの友人)と話してるときに、彼女が今、最も注目してるのがオランダのガーデナー・デザイナーのピエト・ウードルフさんだって話になったんだよね。ちょうど僕ら、彼がガーデニングしたVoolinden Museumに、オープンしたての頃に見に行ってたんだよ。
N- デンハーグから行ったんだよね。超かっこいいコンテンポラリーアートのコレクションと建築、そして庭がすごくきれいで、誰がガーデンデザインしたんだろうって。随分写真撮ったよね。
S- そうしたら、オランダに彼の自邸の庭が公開されてるって聞いて。僕らも三ケ日(浜名湖沿い)に庭をつくりたいと思ってるから。アート&ガーデン。
N- そこでセラピーもできたらいいなあ。
S- まあ、じっくりやるさ。でも、本当に来ちゃったね。
ウードルフの庭の入口の通路に入る。夏は終わり、華やかな花はもうないけれど、枯れかかった花の色の組みあわせ、繊細さ、形の組みあわせのなんと絶妙なことだろうかと、僕らは唖然とする。
中に入っていくと、毛糸の帽子をかぶって、オレンジ色のパンツをはいた女性が話しかけてくる。
「ようこそ。どこからいらっしゃったの?車?バスで来たの。トーキョーから?前の庭とそして後ろもあるの。ゆっくり過ごしてね。」
緑とオレンジのファッション。とてもいいヴァイブレーション。見ると、とても素敵な首飾りをしている。
「これはネイティブ・インディアンのものなの。」
いい庭にはかならず、フェアリーや魔法使いがいて、やさしく迎えてくれるものだ。90年代に吉谷桂子と博光夫妻といっしょに、イングランドのたくさんの庭を車でまわったけれど、ガーデナーたちや庭師たち、スタッフはいつもラブリーだった。それは、宗教のもつ救済を超えた、やすらぎとよろこびがあるといつも思う。
それはきっと四季のチェンジ、生から死へ、死から生へのエンドレスな生のいとなみがあり、人間がエゴに苦しむのとは全く別のサイクル(自然のサイクル)と彼らが直面しながら生きているからだと、僕は感じている。これは庭をたずねる喜びにとって、とても大切なことだ。
さまざまな場所の人が、この「遠方」にある小さな庭を訪れている。それは全く「観光」などではない。それぞれの訪問者たちは、植えられた植物の「面白さ」「興味深さ」(インタレスト)に夢中になり、植物の細部や形、それらが風に吹かれ、瞬間瞬間見せてくれる表情の違いに、時を忘れて過ごすのだ。
来訪者同士は話すことはないが、ここにいる人は皆、同じ何かを共有できているという平和がある。
ウードルフさんの庭は2つの円形の小道が組み合わされ、8(無限)のマークのようだ。四方を高い生垣で囲まれた秘所の中に、さまざまな植物が植えこまれている。
N- 今まで、見たことがない感じがする庭だね。とても不思議ないい匂いがする。
S- 何年も何年もかかって、ウードルフと植物が共働でつくる出した感じがする。成形式の庭は「人間のデザイン」どおりに植物を植えるけど、ここは全く考えが違うね。植物が生えたいように、自然にまかせてるように思う人もいるかもしれないけど、自然にまかせたら、こんなに調律された世界は出現しないもの。ちょっと前まで花をつけていた植物が枯れて、はっぱや茎だけになり、色やかたちが変わるとどうなるかも、ウードルフさんはわかって作っているね。それは、何年も何年も自分の庭と対話しないと生まれてこない。色の変化も。
S- 抗がん作用もあるような気がするな。薬用植物もずいぶん植わっているのかな。
N- ハーブも多いね。フェンネルやバジルや。いろいろなハーブの匂いの中を旅してる気分だね。
S- ところどころ、隠れた場所に花も咲いていて。これは、人間がデザインしてはとてもできないな。これからデザイナーになる人は、まず庭を造ったほうがいいんじゃないかな。
N- こないだドリス・ヴァン・ノッテンの映画観たじゃない。ドリスも庭から、ファッションのインスピレーションを得てたね。組み合わせとか、パターンとか、色とか形。
S- そのことはもっと重視されてもいいと思うな。人工と自然を対立に考えないクリエイティブの宝が、そこに詰まっている。
N- Antwerpの本店のディスプレイも素敵だった。ほんとにユニークだよね。
S- ほかのデザイナーが、「デザインしよう」としているのに対して、ドリスは、自然の時間が生み出すスピードを知っていて、それがエキセントリックを生みつづけている。
N- ベルギーやオランダなんて、とっても人工美の街なのに、自然に対するセンスがとても高いのは面白いね。
S- ほんとだね。
S-裏の庭も見に行こう。
N- 見て!座ってパン食べてる人もいる。
S- くつろいでるな。でも、オランダ人だから、パックからパン出して、フルーツはさんだだけ。
N- 赤ワイン持ってきたやつ、こっそり飲もうよ。(ビニール袋に包んでコップにつぐ。)あー、おいしい、このワイン。シチリアのオーガニックワイン。エコプラザに売ってた。安かったけど当たりだね。
S- (レンガに座って)ああ、最高だね。天気の神様も味方してくれてる。あの黒い雲と青空、きれいだね。(目の前の風に揺れている花を撮る)
S- ほら。(と見せる)
N- わあ、きれい。デザインされてるね。
S- 教えてくれるものが無限だよ。いい庭は飽きることがないなあ。
N- ハチが飛んでくるね。ワインがオーガニックだからかなあ。わー。
S- ハチはわかるんだろう。
気が付いたらあっという間に2時間ちかく経っていた。
N- 風がつよいね。
S- いい季節に来たな。ちょっと肌寒いくらい。すこし酔っぱらってきた。あー、気持ちいい。
N- このレンガの建物はなんなのかな。家?
S- ゲストハウスなのかなー。
奥の家を見ていたら、さっきの女性スタッフが近寄ってきて、「入ってごらんなさい」と言う。中に入ると、白髪の長身の老人が、地面に這いつくばって草取りの作業をしていた。
N- ウードルフさんかな?
S- きっとそうだね。
N- とっても楽しそう。
僕らはしばらくその庭仕事の様子を見て、「サンキュー」とだけ言って、そこをあとにする。
ウードルフさんは手をあげて、微笑んだ。素敵な出逢い、そして別れ。
もう来年からはここは公開されない。
N- そろそろ帰ろうか。バスの時間も近づいてきたよ。
S- あー、楽しかった。あっという間だったけど、とても愉しい充実した時間だったね。ウードルフさん、ありがとう。
BOOKMARK…
Museum Voolinden http://www.voorlinden.nl/
Piet Oudolf https://oudolf.com/
吉谷桂子オフィシャルサイト http://www.ygs-gallery.com/
後藤渚ブログ http://sakanatote.hatenadiary.jp/
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