シールマチビト|11月エッセイ
仕事終わり。
後輩と駅までの帰り道を歩く。
道中ちょっと高めのおにぎり屋さんの前を通る。おにぎりの中だけでなく、てっぺんにも具が乗っているタイプのやつ。
会社ランチに利用することもあり美味しさを知っているから、前を通るついでに足を止めた。
「ここのお店のタラコとね。あとあのチーズが入ってるやつ。美味しいんだよね。食べたことある?」
「そうなんですか?食べたことないです!」
なんて話しかけていたら20時になった。
それまで特に話さず対面していた店員さんが、スっとしゃがみ何かを取りだした。
20%値引きシールだ。
買おうと思っていたものが目の前でお値打ちになっていく。どうやらこの時間になると、値引きシールを貼るらしい。
「お会計するから待っててもらってもいい?」
後輩にそう伝えて、夜ご飯にするべくおにぎりを選び始めた。
すると店員さんが一言。
「シール貼られるの待ってたんですか?」
半笑いで言われたその言葉の意味を、その場ではあまり理解できなくて。
曖昧な返答をしながらお会計が終わり、電車に乗りこんだ。
後からもやもやし始めた。
だって定員さんの一言で『人を使って時間を稼ぎ、値引きシールを待つケチな人間』が誕生したのだから。
一緒にいた後輩はそんな風に思わないかもしれない。定員さんも深い意味はなく言ったのかもしれない。
それでも、それでも、もやもやする。
明らかに悪意のある言い方だと思った。
なぜそんなことを言われなきゃならないのか。こちらが何かしてしまっていたのなら、しっかり反省をしたい。
だがしかし他にお客さんはおらず、話していた時間も1、2分程度だった。営業の邪魔をしていたとも考えにくい。
仮にわたしが生粋のシールマチビト※だったとしても、そうでなくても。
半笑いで「シール貼られるの待ってたんですか?」と言われて嬉しい人は、この世に存在しないのではないだろうか。
(※値引きの時間になり、シールをその場で待つ人のことをシールマチビトと呼んでいる。お店側は売り切りたい、お客さんは安く買いたい、双方の利益があるから、マチビト行為は悪い文化ではないと思っている。)
仕事終わりに好きなおにぎり屋さんを紹介していたはずが、一瞬にして犯罪を犯したかのような気持ちになった。
おにぎりに罪はないけれど。
会社ランチをおにぎりからコンビニ飯に移行したわたしは、あの時の一言をまだ消化しきれていないようだ。