行った旅行も思い出になるけど、行かなかった旅行も思い出になるじゃないか
2月の頭、恋人と鎌倉へ旅行に行く予定だった。
ふたりでどこに行くか、どこの宿に泊まるか、何を食べるか沢山決めていた。
けれど、旅行に行く1週間前に恋人がインフルエンザに罹った。
鎌倉の旅行は行けなくなった。
インフルエンザと聞かされた時は真っ先に体調の事を心配したし、早く元気になって欲しいと思った。
けれど日数が経つにつれて、私はどこにもぶつけられない心の奥の気持ちのやり場に困っていた。
そもそも今回の鎌倉は、1年半の記念日として行くことになっていた。
私が何年も前から泊まってみたかった宿にも予約できた。
美味しそうな夜ご飯の場所も見つけて、恋人とふたりで楽しむはずだった。
もちろん恋人も同じ気持ちだと思う。
鎌倉に行きたかったに違いない。
だって私より恋人の方が楽しみにしている気持ちが溢れていたから。
インフルエンザに罹ったのも恋人のせいじゃない。
誰だって罹るものなのだから仕方ない。
沢山「ごめんね」って言われた。
だからこそ、この気持ちをどこにぶつけたら良いのか分からなかった。
きっと私が恋人の立場になったら、恋人は「仕方ないよ、また行けば良いじゃん。それより早く元気になって」って言ってくれるに違いないし、私も沢山謝っていると思う。
それを考えると責めることなんて出来ないし、
責めたところで鎌倉は行けるわけじゃないし、
お互いに良い気持ちにならないに決まっている。
そんな事は分かっている。
気分が沈んでいる私が思い出したのは『カルテット』のすずめちゃんの台詞だった。
「行った旅行も思い出になるけど、行かなかった旅行も思い出になるじゃないか」
行った旅行はもちろん思い出になる。
けれど確かに、行かなかった旅行も思い出になる気がする。
ふたりでどこに行くか考えて、日にちが近づくに連れて楽しみな気持ちがどんどん膨らんで行って、そこでふたりは何をしようかな、どんな思い出が出来るのかなって考えて。
けれどとある理由でその旅行は行けなくなってしまって。
その後のやるせない気持ち、どこにぶつけたら良いのか分からない気持ち、行けてたらどんなに楽しかったのかと考える気持ち。
時間が経てば、行けなかった旅行も思い出になるじゃないか。
そう考えてやり過ごす日々。