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another story-ほんとのところ⑪

ようちゃんに出会う前、私は辛い恋をしていた。
その恋が終わろうとしていたときに、出会ったのがようちゃんだった。

ようちゃんは言葉も表情も柔らかくて優しい。
私を否定する言葉は使わない。
その優しさは仕事だからと
割り切った態度から来るものと分かっていたけれど
ようちゃんに惹かれるまでそう時間はかからなかった。
そして、関係を持った・・・

一度でも関係を持った男女が
密室にふたりでいると何が起こるでしょうか?

その日も、教室に入って目が合った途端に
どちらかともなく抱き合いキスをした。

会いたかった・・・

唇を重ねただけの軽いキスが
お互いの舌の感触を求めるように絡み合う。
唇を離して潤んだ目で見つめ合う。
そして、また深く深くキスを求め合う。

ようちゃんが愛おしくて堪らなくて厚い胸板に顔を埋める。
ようちゃんが私の腰を服の上から撫でる。
さすがに教室で行為は出来ない。
何度も何度もキスを繰り返した。
離れたくない、ずっとこうして、くっ付いていられたらいいのに・・・

レッスン時間は30分。
なのに、一体どれくらいの時間が経ったのだろう。
こんなことしていたら、何のために通っているのか分からなくなる。
頭では理解できるのに、体が離れさせない。

ようちゃんの体を振りほどいたのは残り10分前。
力が入らないフワフワした体でスティックを持つ。
こんなんじゃ、出来る訳ない。
案の定、失敗しまくり全く身の入らないレッスンだった。

もう、次の生徒がドアの外で待っている。
ありがとうございました、と紅潮した顔で教室を後にした。

ー今日はごめんなさいー

何だか、気まずくて短いメッセージを送った。

ーうん、何しに来たのか分からなくなっちゃうからねー

ようちゃんもすぐに何のことを指すか分かったよう。

ごめんなさい、私、ようちゃんのお仕事を尊重してないよね・・・
あんなことしちゃいけない・・・

自分がとても情けなく感じた。




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