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another story-ほんとのところ㊱

「地獄の釜の蓋も開く」という言葉もあるくらいだから
いちばん暑い時期にはあまり無理せずに
地獄の鬼達も仕事を休むのだから、きちんと体を休めなきゃいけない。

夫も娘も休みだったけれど、私は仕事だった。
お昼休みに一度帰宅して昼食を用意して、また仕事に行く。
それを一週間続けたら、暑さも相まって毎日クタクタに疲れた。

ようちゃんはこの休み中はずっとお仕事みたい。
毎日インスタのストーリーズにライブのお知らせがアップされる。

ようちゃんと行った海辺のカフェでのライブのお知らせを見つけた。
行ってみたかった、でも、仕事もあるしかも遠い。

ライブが終わった深夜に、ようちゃんの楽しそうな姿が投稿されていた。
たぶん、私のことなんて
頭の片隅にもないんだろうなと切ない気持ちでいっぱいになった。
涙が出そうになったけれど、頭を振ってそんな我儘な思いを追い出した。

ようちゃんが楽しい時間を過ごせて良かった。
笑うと目が三日月のカタチになる
あの私の好きな笑顔がたくさんあったのだから。

8月24日の夕方。
急に土砂降りの雨が降った。
電車の窓に打ち付ける雨粒が大きくなった。

とある雑居ビルの1階にあるライブハウス。
ステージに向かって右側の奥のテーブルに座り
ノンアルコールビールを頼んだ。
いちばん前の席には、あの女性がひとりで来ていた。

今日はお客さんはそれ程多くなかったから
ようちゃんから私が来ているのが分かってしまう。
おどおどしていると、直ぐに6人くらいのグループが来て
前のテーブルについたから隠れられると少し安心した。

この前のバースデイライブのときと同じメンバー。
でも、ようちゃんの音の表情がいつも違う。
今日は、次はどんな顔をするの?と思うと毎回聴きに行きたくなる。

ようちゃんのソロ。
ちょっとびっくりする。
突然スネアを手で叩き始めるのだから。
そんな人初めて見たよと思わず笑みが零れる。
そう、幸せな笑み。
まるで、男の子がおもちゃで遊んでいるみたい。
ようちゃんのドラムは人を幸せにするんだよ。
私、それをずっと聴いていたいのに・・・

今日も1SET目で帰った。
外に出たらさっきまで降っていた雨は
すっかり上がってアスファルトの匂いが漂っていた。
湿度が高くて歩く度に足にスカートが巻き付いた。
時折頬を撫でる風がどことなく秋の空気を含んでいるような気がした。

嬉しさと切なさとほんの少しの寂しさ
いろんな気持ちを抱えて地下鉄への階段を降りた。






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