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another story-ほんとのところ⑬

ようちゃんと海に行く約束をした土曜日の朝。
少し風邪気味というようちゃんから
一時間くらい遅れると連絡をもらった。
待ち合せの駅の手前にあるコンビニで
100%の果肉入りのグレープフルーツジュースと
ジャスミンティーを買った。

ロータリーで待っているとようちゃんの黒い車が入って来た。
周りを見回して知っている人がいないことを確認し助手席に乗る。

「おはよう、風邪、大丈夫?」

グレープフルーツのジュースを手渡した。

「ありがと。いっぱい寝たから大丈夫だよ。
なぎちゃんは今日いつまでなら大丈夫なの?」

「夜ご飯は作らなきゃいけないから、6時過ぎかな。
友だちと映画を観てランチして来るって嘘ついちゃった」

「うん、分かった。なぎちゃん、ここに行かない?」

ようちゃんは私にスマホの画面を見せる。
ようちゃんのインスタに登場したことがある海辺のレストラン。

「予約できる?」

「ちょっと待ってね」

自分のスマホを開き予約を入れる。
ようちゃんは夫が絶対に連れていってくれないような
お洒落なお店をたくさん知っている。
そこに連れて行ってくれるのは
私をちゃんと女性として扱ってくれている。

海浜公園として整備されている海。
向こう側は海釣り公園になっている。
11月半ばなのに暑くてワンピース一枚でも心地よかった。
人はあまりいなくて、犬の散歩をしている人をたまに見かけるくらい。

「25歳くらいだったかな?
暇だから、昼間みんなでここに集まってビール飲んだりしていたな」

「昼間から?なんか、自由だね。25歳って言ったら
私はもうお母さんになっていた歳だよ。
ようちゃんは大学を辞めてから、どこかで働いたとかはないの?」

「うん、ないよ。それに今更無理でしょ?」

「じゃぁ、誰かに怒られたこととかもないの?
私、仕事で怒られてばかりだったよ。怒られ慣れていない感じ?。」

「そうかな」

笑って答えるようちゃんがとても遠い世界で生きて来た人の様に感じた。

「大学を辞めたとき親には、お前はもう普通に結婚するとかは無理だよって
そのときは、まあ、いいやって思ってたけどね」

「ようちゃんは結婚したい?子ども欲しいって思う?」

「うーん、結婚てカタチに拘らなくても
一緒に過ごせる人がいたらいいかなとは思う。
その人に子どもが居たら、それはそれでいいけれど
自分の子どもを一から育てるのは考えていないかな」

「そっか、、」

ようちゃん、甘いよ、と喉元まで出かかった言葉を引っ込めた。


車の窓の向こうに白波が見える。
内陸と海側では風が全然違う。
今日は特に風が強いみたい。

お店の名前が示すように小高い丘の上に立つレストラン。

「ようちゃんはここによく来るの?」

「うん、たまにね」

そうだよね、男友だちと来るところではないと思う。
ようちゃんにだって過去はあるのに、勝手に嫉妬する。

ふたりで直径30㎝くらいの大きなお皿に
サラダとローストビーフやエビやアボガドが山盛り乗った
サラダランチを頼んだ。

「ようちゃんは自分でご飯つくったりしないの?」

「うん、全く作らない。キッチンはほぼ物置だよ。
飲みに行って、そこで済ませるとかばっかり」

「もし、彼女とか奥さんがいたら
お家でご飯作って待っていて欲しいとか思わないの?」

「思わない、そういうのは求めていない」

わざと言っている?
本当は家庭の温もりみたいなのが欲しい?

40歳半ばを過ぎて、今更、誰かと合わせなきゃいけない生活よりも
ひとりで自由にいたいのかな。
だからと言って、夫と別れてようちゃんと一緒にいる気もない私に
ひとりじゃ寂しいよ、と口出しできる権利もない。

お腹いっぱいだね、夜ご飯も要らないくらい、と
ふたりで顔を見合わせて笑う。

ハンドルを握り、これからどうする?と聞くようちゃんに
どうする?と同じ言葉で返す。
車の時計は午後2時を少し過ぎたところ。
ようちゃんは、じゃ、いこっか、とウィンカーを出し
国道を右に曲がったところにあるホテルに入った。

そうだよね、甘い未来を想像したところで
不倫の恋が求めるものは、最終的にはセックスなんだよね・・・







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