中島知久平の「必勝戦策」。第二、皇國保全の方(妄)策 一、日、獨、ソ、三國提携策
では、このまま戦略を変えなければ日本は大打撃を食らうと予測し、武力解決ではなく、外交での落とし所を知久平さんは考察しますが、「(妄)策」と断りを入れて説明をしています。
で、先に断りを入れますが、「この項目は長いが、勢いで読んだほうが伝わりやすい」と判断し、今回は長めです。
近時、皇国保全の策は、外交方略に依る外に道はなしとの議が、一再に掲って居てる、其の一つは、日、独、ソ、三国提携策であり、他の一つは、日、独、米、英、四国提携策であります。
一、日、独、ソ、三国提携
此の方略は、ソ連に相当の利を供して、日、独、ソ、三国提携をなし、ドイツは東部戦線の軍を挙げて英国を撃破し、後に日、独、共力して米国を交撃すれば、遂に米国は屈するに至らん、ソ連に対しては、然る後に之を後處理せば、易々たるのみ、これぞ、戦争を枢軸側の完勝に導き、皇国の保全を充ふし得るの道であると謂うのであります。
成る程、之の筋書通りに行けば、日本には極めて有利であることは申すないことである、然し味方に有利のことは、敵に不利であることを忘れてはならない。
現在の戦勢からすれば、恐らく、スターリンはドイツはもう一突きで倒すことが出来る、ドイツを倒せば、ソ連は世界最強となるのであるから、赤化主義と併行して、全欧州を掌握することは意の儘である、次に亜細亜の処理に関しては、少なくとも支那、満州、朝鮮は掌中のものである、然る後に、米、英に対しては、赤化構作を以て内部を撹乱しつつ武力を以て之に臨めば、世界制覇は近きにありと考えて居るに相違ないと思うのであります。
ソ連からすれば、斯く勝勢盛なる時に於て、日、独、ソ、三国提携をなすことは、ドイツを助けることであり、ドイツを勝たしめることであり、ソ連自体が滅びることである、之を平たく云へば、今枢軸側は非常に危険になって来たから、ソ連少し休戦して呉れんか、其の間に日、独、は米、英を撃破して仕舞う、其の上でゆっくりとソ連をやっつけるから、それ迄休んで居て呉れ、と云う事であります、こんな外交が人類世界に通用すると思うのが間違いである、況んや、スターリン、ともあろう者が乗る筈ない。
斯く如き、実現性絶無の外交に望を属し、皇国の運命を托せんとすることは、最も危険なる妄想であると断ぜるを得ないであります。
「わざわざ私ごときが解説するなんて野暮だなー」と感じつつも(要は非常に分かりやすい、納得した内容)、いつものように意訳短縮をしてみたいと思います。
「近頃、皇国保全の策は外交方針よる以外に道はないとの議論が一度や二度あります。その一つは、日独ソの三国提携策と、もう一つは日独米英の四国提携策であります。
一、日、独、ソ、三国提携
この方針はソ連に相当の利益を差し上げます。ドイツは東部戦線で英国を撃破し、日本とドイツが協力してアメリカを攻撃すれば米国は屈し、ソ連に対してはしっかりと後処理の約束をすれば、易しいものです。枢軸側の完勝です。
なるほど。この筋書き通りに行けば日本は極めて有利です。逆に言えば、これは敵に不利になる筋書きです。
現在の戦況からすれば、おそらくスターリンはドイツをもう一突きで倒せると考え、ドイツを倒せば全欧州を意のままに置けます。東アジアもしばらくすれば支配下になります(※日本は南陽戦線に夢中なので、北方の守りは手薄)。アメリカとイギリスに対しては内部撹乱と武力を用いて世界制覇が近いと考えているでしょう。
ソ連からすれば勢いがある時に三国提携をすればドイツを助けることであり、ドイツが勝ったらソ連が滅びることを意味しています。平たく言いますと、
『ごめーん。枢軸側は今ピンチなの。ソ連君。しばらく休戦してくれない?その間に、イギリスとアメリカを倒すから、君はしばらく休んでいいから(でもそれが終わったら、ソ連を倒す予定だけどね)』
こんな外交が通用すると思うのが間違いであり、いわんや、スターリンがそんな話に乗るわけがない。日独ソ三国提携作は実現性が皆無で、最も危険な妄想です」
あたりでしょうか。日ソ不可侵条約を引き合いに出してドイツとソ連を講話させる案なのでしょうが、知久平さんは、
「世界の外交常識から言ってありえないし、スターリンの性格を考えればなおさらだ」
と強調しています。「得をするのはソ連だけだ」な話ということです。
ビスマルクが岩倉使節団に対して述べた言葉を連想しますね。
「赤化主義」に対してはこの本が勉強になるかな? ソ連の「雪作戦」「トロイの木馬戦略」に関する本はろくに読んでいませんが。
では、次回は、「日、独、米、英、四国提携策」に対して、知久平さんは「そんな事をしたらこうなる」を打ち込みます。
はい。今日の旧仮名遣いの勉強です。
況んや←いわんや
今回、ググって読み方を知ったのはこれだけでした。他は字面からして意味が伝わりました。念の為ググりましたが、大きくハズレていなかったです。
表意文字、最高だぜ!(細かいニュアンスだと、また大きく違う例もあるので油断できませんが)