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親と死別した子どもの理解:死を体験した子どもを目の前にして私たちは何を考えるか


 親と死別した子どもに対して、どのように対応すればよいのだろうか。その子どもは、身内や親せき、または自分の子どもになる場合もあるだろう。情報としていくつかまとめ、思った事を記述する。

①阻害しないこと

 子どもの親や周囲の人が亡くなった時、周りの大人は「子どもにはこのような現実は耐えられない」、「きっと大きな傷が残るに違いない」と死の場面から遠ざける。特に、お葬式や法事、死に関する話し合いなどからはできるだけ遠ざけようとし、またそれが子供のためだと思っている。その場に参加をしていたとしても、慌ただしく動く大人からは遠ざけられ、他の場所でくつろぐように、遊ぶようにと、死の場面から阻害されることが多いかもしれない。しかし、子どもを死に関する意思決定の場から遠ざけることは、死を悼み、悲嘆を適切に感じることを邪魔している。

 子どもにとってそれはどのような体験になるだろうか。研究によると、たいていの子どもはそれに怒りを感じ、充分に死と向き合わせてもらえなかったことに不信感を抱く。これは大人になっても残る感情だ。

ではどのようにすればいいか。子供に関係する死が起こった時、大人は子どもに選択肢を提示し、充分に説明を行うのが良い。葬儀にはどの程度参加するのか、死んだ人の顔を見るのか、など様々な選択を子供が自分で選べるように、支えていく必要がある。発言や選択を許されないままでいるよりは、選択を与えてもらい、それを決定することの方が子どもは死と向き合えるようになる。死に関して自分が無力であったと感じることは、長い目で見て、自分の人生をコントールできるという感覚を得る事ができないことに繋がりやすい。死の場面に対する子供の関わりを大人が勝手に決めつけるのではなく、どんなに幼い子供であろうとも選択肢を提示する方がずっと良い。子供時代に死を経験した大人に対するインタビューでは、身の回りの死に自分が近づけさせてもらえなかったこと、すべてが勝手に決められていったことへの怒りと不満、失望が語られる。この感情は長い時間心を蝕み、大人時代の健康な精神を損なう可能性がある。

②正直で明確な情報を渡すこと

 親や周囲の人の死の理由や、その時の状況、また現在起こっていること、今後起こりうることなど、子どもにも情報を与えることが望ましい。死は恐ろしい事で、誰もそのことについて語る方法を持っていない。子どもには耐えられないと、大人が勝手に心配し、情報を制限することはよくある。しかしこの場合、大人も死についてどう向き合ってよいか分からない場合が多い。子供の死のケアを行っているドナ・シャーマンは、親が死んだ子供に、死についてどのように説明すればよいか、またどこまで説明しないべきなのかを相談された際、このように答えるという。「今あなたが私に話してくれたことを、子どもにも同じように話してください」。子供に情報を与えないようにするのは、優しさであり、死には耐えられないだろうと想像する配慮でもある。しかし、死への情報が渡されないことは、長期的に良い結果を生み出すだろうか。死は人間に当たり前にくるものであるが、我々は死の扱い方を十分には分かっていない。だからこそ、大人側も怖がらずに死について子どもと率直に話し合うべきである。


③生活には一貫性をもたせ変化を増やさない

 死は大きな変化である。日常の生活は大きく変化し、子どもを取り巻く大人の対応、人間関係が変化する。その時、小さな習慣は役に立つ。亡くなった親がいないと成り立たない習慣は継続できないが、それ以外の習慣を続けることは子どもの安定を図るうえで役にたつ。子供同士の人間関係でさえ、親が亡くなった子とそうでない子との間には大きな溝が生まれる。亡くなった子は周囲がまるで変わったと感じることが多く、また実際に周囲もどのように声をかけてよいか分からずに実際に関係が変わることがある。

 親が亡くなる事で、子どもの役割も変化する。亡くなったのは母親であり、子どもが長女であれば、家庭内の家事をその子供が任されることになるかもしれない。亡くなったのは父親であり、子どもが長男であれば、家族の事を守るように、そして支えるように言われるかもしれない。「これからは君が家族を守るんだ」、「協力して兄弟を世話するんだよ」、「お兄ちゃんに迷惑をかけないようにいい子にするんだ」、「いつまでも悲しんでいられないね。これからは頑張らないと」と誰かが言ってくるかもしれない。これまでは、子どもとしてのびのびと生きてきたにもかかわらず、親の死により子どもは子どもの時代を奪われる。これは現実的にはどうしようもない事であるが、子どもにとっては重圧である。変化を強要され、それをこなしていかなければ自分の価値がなくなるように感じる。子どもを子どものままでいさせておくこと、子どもの生活に変化を強要しないことが重要だ。

 また、残った親の死に対する向き合い方は子どもへのメッセージになる。自分の部屋だけで悲しみ、子どもには平気な振りをして外では精力的あることは、子どもに「悲しみは一人で乗り越えるもの、人に頼ってはいけない」と言うメッセージを送るかもしれない。また、ふさぎ込んだままで自宅にこもりっきりであることは「死は乗り越えられず、だれにも助けを求めることはできない」というメッセージになるかもしれない。大人の側が、周囲に適切に助けを求め、人と一緒に悲しみにひたり、誰かと一緒に過ごすことが、子どもにとっても重要である。

④居場所が安全であることを伝える

 親の死を経験した子どもは、死が身近なものになる。これまで生きてきた世界が安全ではないことを知り、自分も死んでしまうのではないかと想像する。死を体験したことのない子に比べて死は身近になり、不安を感じて生きることになる。重要であるのは、子どもが生活している場所が安全であると伝える事、大人が側にいることを示すことである。死を経験した子どもと接するのは大人にも葛藤を与える。どのように接すればいいか分からず、よそよそしくなり、何が失言をしないかと言葉も減る。しかし、それでは、死と言う体験によって子供の生活が変化してしまった事を強調するだけである。死は大きな変化であり喪失だが、それによって子ども自身の安全や生活が全てなくなっているわけではないと証明してあげなくてはならない。

⑤表現する事をしなくてもいいし、しても良いとという選択権をあたえる

 子どもは、亡くなった親について話す機会があまりない。残った親も、自分の愛する人の死を受け入れる事ができずに子供と語り合う時間を取らないことが多い。生活を回していくだけで精いっぱいで、死についてじっくりと向き合うことができない場合もある。子どもも、死に関する話題を大人が避けていることを感じ、口を閉ざす。大人も、死についてあまり触れさせない方が子供のためになると信じ、あえてその話題をさけることになる。また、死の話題は場を変化させ、一時的に暗くさせるため、それについて向き合う体力と強さを持てない場合は長期にわたって死を感じさせる状況すら回避することもある。

 子どもには、自分の親の死について「話してもよいし、話したくないことは話さなくてよい」という選択肢を提示しておくことが大切だ。死は最もコントロール不可能な事態である。死に遭遇した子どもは自分の人生はコントロールできないものだと無条件で信じさせられる。その時重要なのは、死に関する事柄について、自分が選択をすることができるという感覚だ。死に翻弄されるだけではなく、自分がそれをどのように表現し、どのように受け入れ、どのように拒否するかを決める事を許されることが重要なのだ。(死を受け入れることが重要に思われているが、回避することもまた重要な過程である)

 また、大人は「いつまでも悲しんでいると親が悲しむ」、「くよくよしていても始まらない」、「前向きに」という言葉を良かれと思って投げかける。励ましのために。大人側も、その言葉を自分に言い聞かせているのだ。しかし、子どもにとってそれは、感情を表現することを禁止するメッセージになり得る。いつまでも悲しんでいてはいけないと死を否定し、自分の感情を押し込める。訳が分からず、何も理解できず受け止めきれないまま、感情を奥底に押し込めることがけが上手になっていくのだ。実際には、そういう感情は消していくのではなく、自分の感情を感じ取り表現することが必要なのである。

 …私たちの世界は、死を「乗り越えるもの」と考えているが、越えなくても別に良いのではないだろうか。死を後ろに置いてきぼりにするのではなく、蓋を閉めて隠すのではなく、遠い過去のようになかったことにするのではなく、隣に置いておいても良いのではないか。確かにそれは非常につらいが、辛いものを辛いを感じるのは当然であるし、そこから回避することは結局できない。死のトラウマに関する治療であっても、トラウマとなっている情緒的な体験は「処理」するが、その体験そのものをなくすようにするのではない。むしをその体験に対する自分の価値や評価を柔軟に変化させていく事を目指すのである。死を経験した子どもは、経験したことのない子供に比べて確かにつらい日々を送ることになる。下に示す特徴も問題視される。しかし、全員がこの特徴に当てはまるわけではない。

〇死(悲嘆を)経験した子どもは、7つの重要な特徴を抱える

・外的統制間の欠如

・低い自尊心

・高い不安と恐怖

・うつ傾向

・より多いケガや事故、健康問題

・将来に対する悲観

・パフォーマンスの悪さ


 もし、大人になり、子ども時代の死が自分を苦しめているなら、以下の情報が役に立つかもしれない。死別の悲嘆を抱える子供たちを支援し続けているドナは親の死が今の自分のどのように影響するのかを探索することを助け、死に取り組む事を支える10の提案をしている。

①必要な情報を手に入れる:死について知りたいと思っていることを知る。隠されてきた、曖昧なままにしておいた情報を得る。

②親との絆を保つ:死を体験しても、亡くなった親との絆をはぐくむ。死を「乗り越え」「前に進む」ことを重要視するのではなく、繋がりを保つことはあなたの支えになる。

③追憶のための儀式や伝統を作る:死を避けるのではなく、向き合い、思い出させてくれるタイミングを作る

④書き出す:感情に関する日記、親への手紙、死の体験体験に関するまとめなど、自分の気持ちを表現する活動は精神的な健康に繋がる

⑤表現アート:「悲しみに言葉を」byシェイクスピア

⑥思い出の品をまとめる:死に関する思い出は、遠くに置いていくものではなく、身近にしておくのが良い。あなたへの贈り物になる。

⑦何か良いことを形にする:感情を抑制することは健康を損なる。自分の本を書いたり、組織を立ち上げる、サポートグループに参加するなど行動する。

⑧ボランティアをする:ボランティアは自分も癒す。自分の悲嘆に関わる活動なら、なおあなたのためになる。

⑨セルフケアをする:死別の悲嘆の影響は感情的にも身体的にも長期にわたり影響する。自分をケアすることを忘れない。

⑩自分の物語の意味を見つける:「どうして私にこんなことが起こったのか?」の意味を探索する


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