![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/102368865/rectangle_large_type_2_a67e3bee74353ddbd1f60f8bac1a2264.jpg?width=1200)
「週刊金曜日」2023年3月31日号にチャン・リュジン『月まで行こう』(バーチ美和訳、光文社)の書評を書きました。
僕は日本に届けられている韓国文学の特色として、社会に巣食う「絶望」の深さが文学的な強度を叩き、磨き上げているところにあると思っています。この作品も、格差社会のなかで絶望を抱かざるを得ない三人の女性が主人公。諦念に足を絡め取られた同じ会社で働く親友三人の前に、実態なき希望が現れるわけです。それが仮想通貨。
仮想通貨の魔力に取り憑かれる三人が、自分の人生をどう軌道変更させ、いかに新しい生き方を掴むのかは、ぜひ本書を読んで確かめてほしいんですが、欲望を社会に対峙させるそのあり方に、韓国におけるミレニアム世代のイマジネーションのリアルがあるんじゃないかな、と思うんです。
だって、本書の後半で〈ねえ、お金って最高!〉というセリフが出てくるんですが、そんな言葉を嫌味も卑しさも惨めさもなく主人公に叫ばせる小説があったでしょうか。身分的にも性差の点でも、苦渋を味わい続けた三人の人生にとって、堅実や無欲といった綺麗事は救いにならない。物語のなかで加速する彼女たちの金への欲求は、終末的な現実の世界への怒りが原動力になっているわけですね。
チャン・リュジンさんの作品は日本では他に『仕事の喜びと哀しみ』(牧野美加訳、クオン)があります。これも、ミレニアム世代の新しい社会に対する眼差しが鋭く光る短編集。こちらもお読みください。僕の大好きな短編集です。