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シードステージのスタートアップの評価額はどのように決まるのか

その昔、シリコンバレーのとあるベンチャーキャピタルのニュースレターを購読していたのだが、つい最近、過去メールを整理していたら偶然表題のレターが目についた。少し懐かしくなったので、参考和訳の上内容を以下の通りシェアしたい。

要約すると、売上もまだ経っていないシードステージのスタートアップの評価額を決める要因は、DCF法により算出されるようなその企業の本源的価値でもなんでもなく、「調達した時の需給バランスにより決定される」という身も蓋もない内容である。

(以下、参考和訳)

シードステージのスタートアップの評価額とは、非常に曖昧な概念である。端的に言うと、その評価額はかなり恣意的で需要(スタートアップがいくら欲しいか)と供給(投資家がいくら出したいか)によってのみ左右されるのである。 

シードステージにおけるスタートアップの評価額とはスプレッドシート上で計算される将来キャッシュフローに基づき算定されるようなものではない。したがって、上場企業の時価総額とは全く異なる考え方に基づき算定されるものである。

この点は非常に重点な点である。多くの創業者は「なぜ売上ゼロのあの会社が1,000万ドルを転換社債で調達できた一方で、100万ドルの売上のある別会社は、かろうじて600万ドルしか転換社債で調達できないのか?」と考えがちだが、単に需要と供給に基づいて評価額が決まったから、である。

では、需要と供給に影響を与える要素とは何か。大まかに言えば以下の通りである。

  • 市場環境・経済環境

  • 地理的条件

  • 競合他社の存在

  • 収益、チーム構成成長、業績の状況

  • 資金調達プロセスの運営方法

  • 資金調達環境

<市場環境・経済環境>残念ながら、市場環境・経済環境はあなたの力ではどうにもならない。2008年から2009年の期間は、資金調達には最悪の時期だった。投資を行おうとする投資家がほとんどおらず、スタートアップはただ時が過ぎ去るのを待つしかなす術がなかった。

この時期、Instagramのシードラウンドに約2百万米ドルの評価額で出資した投資家がいたが、当時としてはこれはかなり高い買い物だと考えられていた(その後の成功を知ればこれは破格の値段だが)。

実際のところ、外部環境は、スタートアップの実際のビジネスの内容や実績以上に、その評価額に影響を与えるのだ。シードステージのスタートアップのビジネスを正しく定量的に評価する術を知っている投資家は実際にはいないため、スタートアップに対し、同程度の金額で評価することが一般的である。

<地理的条件>外部環境という観点では、どの地域でスタートアップを立ち上げるか、という観点も、評価額に大きな影響を与える。シリコンバレーで資金調達を行うスタートアップは、他の多くの場所よりも一般的に高い評価額で資金調達を行うことができる。裏を返せば、あるスタートアップの創業地に投資家が5人しかいない場合、彼らは好きな条件を要求することができる。ただし、最近ではスタートアップ企業が地元の地域以外でも資金を調達するようになり、また多くの地域で投資家の数がここ2年ほどで大幅に増えたため、この状況は少し変わりつつある。

<競合他社の存在>多くの競合が存在するスタートアップの多くは、高い収益を上げていながら資金調達に苦労していることにフラストレーションを感じている。そして、資金調達ができたとしても、その評価額は期待したほど高くはない。競合が多数存在するセクターでは、多くの投資家は傍観者となり、投資を行うことを避けがちだ。

ただし、ここで言いたいことは、「競争の激しい分野は避けるべき」ということではない。Googleは創業当時、検索エンジンの中では7番目か8番目に創業した弱小プレイヤーであったが、その後業界No.1になったことを思い出してほしい。もしあなたが競争の激しい分野にいるのなら、差別化ストーリーに多くの労力を費やすことが本当に重要になる、ということは覚えておいて欲しい。

<収益、チーム構成成長、業績の状況>収益が増加していけば、より多くの投資家がスタートアップへの出資に関心を持ち、評価額を押し上げる要因おの一つとなる。とはいえ、「来月さらに1,000ドル収益を増やせば、評価額はYまで上がるだろう 」と考えるべきではない。そんなことは起こらないからだ。
起こりうるのは、①突然多くの収益を上げた場合、投資家が興奮するかも知れないこと、または②もしそのスタートアップが早い段階で投資家と関係を築き、時間をかけて良いトラクションを示してきたのであれば、その追加的な1,000ドルの増収は彼らに投資を決断させるかも知れないが、説得力があるのは1,000ドルの結果そのものではない、ということを明確にすべきだ。

覚えておいてほしいのは、ほとんどの投資家(特にVC)は将来、評価額10億ドルを超えるユニコーンとなる企業に投資しようとしていることである。来月1,000ドルの増収を達成することは、スタートアップのビジネスにとって有意義で重要であり、確かに誇りに思うべきことではありますが、それを以てその企業が将来、ユニコーンに成長すると証明する説得的な材料にはならない。

その他、チームも確かに投資家が投資を決断する上での重要な要素だ。では、投資家の言う「素晴らしいチーム」とは何だろうか?

一般的に、実績がまだほとんどないスタートアップが大きな評価額を得るにには、チームの中に過去にエグジットで成功した経験があるか、有名な急成長ハイテク企業の幹部だった人物がいるケースが多い。

そうでない場合、たとえあなたがカリフォルニア工科大学やMeta、Googleのような有名企業で中堅マネージャーや社員として働いていたとしても、そのチームは投資家を興奮させるのに十分ではない。(考えてみればわかるが、おそらく世界中で100万人くらいの人が、どこかの有名な大企業で働いたり一流大学の卒業生であるはずである。したがってこれ自体はチームの差別化要素には全くならない)。したがって、投資家からの関心を高め、ひいては評価額を上げるためには他の説得力のあるものが必要となる。

シードステージの段階で収益を上げるのが難しい業種もある。ハードウェア、ヘルステック、フィンテックなどが良い例だ。規制の厳しい業界や資本集約型のビジネスでは、投資家が一般的に求めるベンチマークは異なる。

例えば、規制業種では、認可をうまく進めることが、投資家からの評価を得るために重要になる。今すぐ収益を上げることができなくても、認可を進める能力があることを示すことで、投資家の関心を得るをべきだ。

最後に、素晴らしいビジネスアイデアには大きな価値がある。多くの投資家は素晴らしいアイデアだけで非常に関心を示すものだ。

だが、素晴らしいアイデアとは何だろうか。私の考えでは、素晴らしいアイデアのほとんどは、最初から素晴らしいものではないし、最初素晴らしいと思ったアイデアがそのままやっぱり素晴らしかった、ということはあまりない。私の考えでは、実行こそが素晴らしいアイデアを生み出すのだ

とはいえ、毎日たくさんのビジネスアイデアを提案される投資家の立場になって考えてみると、そのアイデアすべてが混ざり合ってしまいます。だから、本当にユニークなアイデアで、一見理にかなっていて、クリエイティブで賢いものが出てくると、投資家は一気に食指を伸ばす。

私が起業家だった頃は、あるアイデアが他のすべてのスタートアップと比較してユニークかどうか見当もつきもしなかった。だから、ほとんどのビジネスアイデアはユニークではないので、自分のアイデアもまたビジネスユニークではないと考えてピッチの臨むべきだ。そんな中、もし投資家があなたのアイデアを良いと言ってくれるなら、あなた競合他社と比べてユニークなアイデアを持っていることになる。

最後に、資金調達の進め方について述べたい。資金調達プロセスは中途半端にコミットするのでなく、フルタイムの活動としてコミットしよう。中途半端に資金調達プロセスを実行するのであればあなたが望むような評価を得ることはできない。
スタートアップ経営者はできる限り自分のビジネスに集中したいから、中途半端に資金調達に関与しがちだが、そんなスタンスでは、投資家の誰もがスタートアップが望むような評価額をつけてくれることはない。投資家の競争の中で、自ら価格をひき上げていく必要があるのだ。

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