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なぜスタートアップは大企業に勝つことができるのか(金融業界の事例)

つい最近、こんなXの投稿を見つけた(以下ご参照)。

「従業員の人数もリソースも大企業に対して圧倒的に劣るスタートアップは、大企業に勝つことができるのか」というのは昔から皆が抱く疑問である。

私はかつてメガバンクにて新規事業開発部署に所属し、いわゆるフィンテックスタートアップとの提携もしくは自前でのサービス立ち上げにむけた研究・開発を担う部署にいた。その時の経験を元に冒頭の質問に対しては「余裕で勝つことができる(ただし条件付きで)」と回答しておきたい。

以下、その理由を少しばかりの金融業界における実例と共に(ただし個別案件が特定できるような内容にはならぬよう)述べていく。

まず、スタートアップが大企業に勝つことができる領域について述べたい。それは、端的に言えばリソース(資金、人材)を大企業が優先的に張っていない事業領域(ノンコア事業領域)である。

大企業はスタートアップとは異なり、実に多種多様なサービスのラインアップを兼ね揃えている。メガバンクの事例で言えば、大まかに言えば以下の通りである。

  • 個人向けビジネス(リテール):預金(普通預金、定期預金、外貨預金)、決済(国内送金、海外送金)、貸出(住宅ローン、無担保カードローン)、資産運用(投資信託)、上記サービスを束ねるモバイルアプリ、その他サービス(遺言信託、貸金庫、富裕層向けサービスなど)

  • 企業向けビジネス(ホールセール):預金(普通預金、定期預金、外貨預金)、決済(国内送金、海外送金、グローバルCMSなど)、貸出(相対融資、シンジケートローン、買収ファイナンスなど)、資産運用(仕組債購入など)、出資、その他サービス(デリバティブ、M&A、事業承継、事業再生、ビジネスマッチングなど)

  • 市場部門:外国為替、債券のディーリングなど

上記のような多様なサービスの中でノンコア事業となる領域は複数存在する。それは例えば、現在の重厚な銀行のコスト構造上では採算が見込めなくなってしまった領域等である。

そして、そうした領域であればスタートアップはいとも簡単に大企業のサービスを駆逐することができるのである。なぜならば、ノンコア事業領域だけに限って言えば、大企業がかけられるリソースはほんの僅かであるのに対し、スタートアップはそこに多額のリソースをかけることができるからである

実は大企業vsスタートアップという言葉を利用すると、リソースの観点で言えばあたかも前者が豊富で後者が僅少であり、また前者が強者で後者が弱者であるような先入観を抱いてしまいがちだが、実態は後者の方が圧倒的に強者である。

大企業にとってノンコア事業はリソースを投入しづらい領域である。したがって従業員も超優秀な人材が配置されるわけではない。したがってやる気のある従業員も配属されにくい。「もっとお客様の声を聞いて、それを元にもっとサービスを改善すべきだ」というやる気のある従業員はなかなか配属されないのである。

仮にやる気のある従業員が配属され、サービス改善計画を立てたとしよう。その次に待っている関門は予算の確保である。このやる気のある従業員は、予算管理部署に対し、「ノンコア事業であるにもかかわらず優先的に予算を配分する妥当性」「その妥当性を裏付けるための採算性」を疎明しなければならないのだ。

一方でスタートアップは、顧客が既存のサービスに対して抱いているペインポイントを理解し、そのペインポイントを解消すべくサービスをブラッシュアップし、一気に事業をスケールさせるべく日夜努力している。勝ち目があるのは圧倒的にスタートアップの方であろう(ただし、大企業のコア事業領域で真っ向勝負すると、スタートアップは叩き潰される可能性があるので要注意である)。

ここから先は、私がメガバンクで経験した実例を、個別案件を述べることなく、あくまで一般論として述べていきたい。

冒頭で述べた通り、私はかつてメガバンクにて新規事業開発部署に所属し、いわゆるフィンテックスタートアップとの提携もしくは自前でのサービス立ち上げにむけた研究・開発を担う部署にいた。

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