見出し画像

中国のベンチャーキャピタルの市場環境は2025年も厳しそうだが、DeepSeekはその懸念を吹き飛ばすのか

https://pitchbook.com/news/articles/chinas-vc-future-hangs-in-the-balance

ベンチャーキャピタル業界にとって、2025年は2024年よりは良い年になるだろうということは通説となっている。米国を始めIPO復調の兆しが見え始め、また企業の評価額が上がりそうな兆しも出てきているからだ。

ただし、中国だけは違う。かつてAlibabaやテンセント等の大手テクノロジー企業を誕生させた巨大市場の地位は急速に衰えつつある。

PitchBookのデータによると、昨年中国に投資された総額は402億ドルで、2023年比で36.7%減、2022年比ではさらに大きく減少している。一方で米国は29.6%増、インドは21.6%増であった。

他国のベンチャーキャピタル市場では冬の時代を脱し、改善の兆しを見せている中でなぜ中国の見通しはこれほど悪いのだろうか。

コロナ禍後の景気減速、そしてその後の世界的なベンチャーキャピタル投資の減速に加え、米国経済とのでカップリングも中国に大きな影響を与えたのだ。米中貿易戦争の激化と国家安全保障上の懸念により生じた2国間の対立はスタートアップにも負の影響を及ぼした。

最近の例としては、前バイデン政権が発した新たな措置が挙げられる。この措置は、AI、量子コンピューティング、半導体など、中国軍に利用される可能性のある新技術を開発する企業を支援する米国の投資家に対し、民事・刑事上の罰則を課すものだ。

その結果、多くの投資家が中国への投資から完全に手を引いたり、もしくは中国内の事業を別のエンティティに切り離したりしている。2024年、中国では海外投資家によるディールへの参加率が過去10年間で最低となり、海外企業が参加したラウンドはわずか8.5%にとどまった。

中国企業による米国での上場も難しくなっている。

2022年、ライドシェア大手のDiDiははニューヨーク証券取引所からの上場廃止を余儀なくされたが、これは中国のハイテク企業に対する米国の締め出しの象徴的な事例であった。

米国政府は全ての上場企業に対し、米国内の監査ルールに準拠することを要求する一方、中国側は国家安全保障上の理由から財務情報の共有を中国外に制限していることが事態をさらに悪化させている。中国政府は米国のIPOに対する情報開示のスタンスを軟化させてきているものの、不安要素は多く残っている。

中国市場に目を向けてみれば、米国から投資が激減したことで中国のベンチャーキャピタルは国内投資家からの調達依存度を高めている。全米経済研究局(National Bureau of Economic Research)の2024年の研究論文によると、中国政府は国内のリミテッド・パートナーシップ(ファンド)の約半数のマジョリティ・オーナーであり、ゼネラル・パートナー(ファンド運営会社)の約3分の1のマイノリティ・オーナーである。また、政府が支援するファンドは、純粋な民間ファンドよりもかなり規模が大きい。

このこと自体は問題ではないが、ベンチャーキャピタルが中国政府またはその傘下の投資家からコミットメントを受けることで、時にはマイナス面がプラス面を上回ることもある。

Zero2IPO社が実施した中国のゼネラル・パートナー688社に対する調査によると、ほとんどのゼネラル・パートナーは、政府と関係のあるLP投資家を嫌っている。その主な理由は、政治的動機に基づく意思決定への干渉である。つまり、中国のベンチャーキャピタルは、ピュアな財務的リターンよりも、地域や国の政策に沿った投資を行うよう圧力をかけられるのである。

政策的な意義からあまり重要でないとみなされる分野のスタートアップは、地域経済を活性化できると思われるスタートアップへの投資が優先される結果、投資を見過ごされる可能性がある。

政府のお金を使って投資で失敗をした場合の恐怖により、多くのベンチャーキャピタルが投資先スタートアップの創業者に償還請求権(特定の目標が達成されなかった場合、企業が株式をプレミアム付き買い戻すことを要求する条項)を付与するケースが多いことも中国VC市場の特徴である。フィナンシャル・タイムズ紙は、VCとPE取引の80%以上にこの償還請求権が存在すると報告している。

市場の流動性が不足し、資金調達に苦戦する中、償還請求権は、投資先のスタートアップが一定の評価額に達しなかったり、決められたスケジュールでIPOできなかったりした場合に損失を取り戻すために使われる。もしこの権利に基づく買戻を創業者が履行できない場合、創業者は中国のブラックリストに載せられており、実質的に別の会社を立ち上げたり、中国を出国したり、飛行機に乗ったりすることさえ禁止されるようだ。

中国メディアのCaixinは9月、中国で最も著名な投資家の一人であり、政府の支援を受けているShenzhen Capital Groupが、償還権に関連して35件の訴訟を起こし係争中であると報じた。

このように創業者にとっては絶望的な状況である中、中国政府はスタートアップ企業を支援する必要性を認識している。李強首相は政府系の投資家は短期的な金銭的利益を重視しない、より長期的な目線から投資先を育成するような忍耐強い資金(Patient Capital)になるよう推進している。また、失敗への寛容さを向上させる努力を呼びかけている。

政府はまた、資金調達、投資先からのExit、ポートフォリオ管理など、VC投資のライフサイクルにおけるいくつかの課題に対処するための改革パッケージを計画している。

一方でドナルド・トランプ政権下でも米中関係は悪化する可能性が高く、欧米の投資家は、かつてアジアで最もダイナミックで急成長していると考えられていた中国市場からますます離れていくだろう。

一方で、海外資本を求める中国のVCや新興企業は、中東などの地域に頼らざるを得なくなるだろう。

こんな状況の中、つい最近登場したDeepSeekは中国スタートアップ市場を復調させる起爆剤になるのか。その技術力はまだ調べる必要があるが調査をしていきたい。


いいなと思ったら応援しよう!