証券アナリストジャーナル読後メモ:AI / IoTは経済構造をどう変えるのか 柳川範之
https://www.saa.or.jp/journal/eachtitle/pdf/taikai_161201_1.pdf
証券アナリストジャーナルを2010年頃からずっと購読している。著名な学者そして経営者の貴重な講演や論文を閲覧できることができ、大変勉強になっている。年会費18,000円は維持コストとして高い、という声も周囲でよく聞くが、月にならせば月額1,500円である。月一回の外食をやめればいい程度のコストで、この水準の論文や講演が読めるのは圧倒的にコストパフォーマンスが良い、と常々思っている。
以下は2016年の人工知能に関する記事で少し古いが、今でも色褪せぬ言葉が多く、大いに学びがある。
コンピュータはすでにある特定の分野では人間の能力を超えてきた。10年前、すでに計算能力は人間を上回っていた。
将棋やチェスで「AIが人間に勝った」というが、正確に言えば勝ったのはグーグルのプログラマーである。裏側には人間がいる。
負けそうになったらゲームのフィールドを変え、ルールを変え、自らが勝てるフィールドに戦いを持っていく。これが人間の現実の世界、経営の世界で起こることであり肝の部分である。しかしAIは突然全く違うフィールドに移されたらついていけない。
ディープラーニングについて:AIが導き出した結果を人間は追認することができない。人間の理解を超えた戦略が導き出される部分がある。しかしそのことと、AIが人間を超えて様々に動き出す状況には大きな違いがある。
コンピュータに大量のデータを読み込ませてディープラーニングをさせると、要約版のような情報を作り出してくる。そこから犬、猫の写真を復元する。思考錯誤するうちに要約版の精度が上がる。この精度が上がると、要約版が犬、あるいは猫と判断するポイントになってくる。コンピュータは人間にはない発想で学習している。
一方で人間は犬と猫を自然に区別できるが、それがなぜ出来るのかはわかっていない。
大事なのは「どの写真が犬でどの写真が猫か」をまずは人間が決め、それに基づいてコンピューターに学習させているという点。正解の基準を人間が来ている。正解の基準のない質問はコンピュータには学習できない。
<ビッグデータについて>
データを大量に集めればそれ自体が価値を持つものではない。コンピュータの発展によって様々な個人データを大量に集めて処理が可能になった。だが多いだけではゴミの山。
<AIが職業を奪うリスクについて>
実際に起こるのは、ある職業が、AI担当業務と人間担当業務に分かれること。人間の業務時間が大幅に減ることは事実。また、ホワイトカラーへの影響は大きい。
現在100人が従事する仕事のすべてを人工知能に代替させることはかなりハードルが高いが、1人の人間と、AIに肩代わりさせた99人の仕事ならば割と簡単にできてしまう。
人工知能研究者はその1人をなくすことで悩むが、社会科学者からすれば99人の仕事がなくなることの方が重要である。
日本のホワイトカラーはどのような専門能力がありどのような仕事がこなせるのかを整理しないとAIに負けてしまうだろう。
<IoT>
各自動車にセンサーがつけばどのような道を走り、どこでブレーキをかけているのか等、詳細な情報を得ることができる。これが自動車保険の世界を大きく変える。
自動運転になれば、自動車保険は商品として通用しなくなる。自動車保険は製品保証の分野に落とし込まれ保険は自動車産業の一部に吸収されるかもしれない。
<機械学習の4大条件>
①インプットとアウトプットが明確
②量的評価が可能
③十分な学習データが継続的に入手可能
④学習データが目標としている問題を表現するランダムサンプルとなっている
人間の仕事で上記4条件を満たすものは少ない。したがって人間の仕事は少なからず残る。
AIは画像診断のような仕事に向いている。明快に正解があり、明確な評価軸があるような仕事はAIが得意である。
仕事が明確でなく、評価軸が曖昧=非効率とも言える。
AIが仕事を奪うというが、正確には、AIを積極的に活用する外国企業・新興企業が奪う。
AIという部下は融通が利かない。きっちりとして支持を出さなければ働いてくれないが、うまく支持すれば大きな力を発揮する。
AIにどのようなビッグデータを読み込ませ、どのような正解を与えるのか。活用の仕方を間違えると非常に動きの悪い部下になる。
翻訳は人手が必要。なぜなら、言語の翻訳は文化的な背景を必要とする
例えば、サッカー監督が日本の選手に「ライオンのように動け」という。ライオンの状態が日本人にはわからない。
人間の言語は背景知識を持ち、それには個別性が強い。
AIに代替されにくい能力とはコミュニケーション能力である(交渉力・交流する力のこと)。