中国から撤退する米国の投資家と、相対的に魅力の度合いを増す日本のPE/VC市場
https://www.axios.com/2023/12/27/us-public-pensions-investing-china-map
米国にはカリフォルニア州職員退職年金基金(通称カルパース)のような公的年金基金が各州に存在しており、2023年6月30日時点のデータによれば、過去3年間で米国の公的年金基金は680億ドル以上(約9兆5000億円)を中国の民間企業に投資をしてきた。現在、この投資に急ブレーキがかかりつつある。
その後2023年8月、バイデン政権は国家安全保障上の懸念を理由に、米国のPEやVCが、中国のAI、量子コンピューティング、半導体企業に対し投資することを厳しく制限すると発表した。
https://pitchbook.com/news/articles/Biden-Xi-US-China-pe-vc-limited-partner-fund-commitments
こうした動きを踏まえてか、2023年は中国のPE/VCに対する米国LP投資家による新規投資件数は2015年以降で過去最低となった(下のグラフご参照)。このグラフ上の「新規投資件数」とは、新たに投資家が投資コミットメントを表明した件数である。この件数の減少は、そもそも中国の景気減速懸念や習政権における中国ハイテク企業への締め付け方針を受け、投資対象として市場の魅力が薄れてきたことが前提としてありうるだろう。それに拍車をかけたのが上記のバイデン政権の投資制限方針だろう。2023年は新規投資に明らかに急ブレーキがかかっている。
話を米国公的年金基金に戻すと、いくつかの公的年金プランが中国からの投資抑制または撤退に関する計画を発表した。2022年、テキサス州教員退職年金制度は中国株への配分を半減することを決定し、フロリダ州の公務員年金制度は中国への新規投資を停止した(ソースはいずれもウォール・ストリート・ジャーナル)。
一方でCalSTRS(カリフォルニア州教職員退職年金基金)のように、中国市場から完全に撤退はせず、投資機会を引き続き伺っている年金基金も存在する。
https://pitchbook.com/news/articles/japan-private-markets-foreign-investors
こうした米国機関投資家が中国からの資金を引き上げた後、その資金はどこに向かうのか。その候補の一つが日本である。最近そんな記事や講演をよく見かける。実際、Moment2023でもアンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者ベン・ホロウィッツは日本市場の魅力を語っていた。
日本市場の魅力が相対的に高まっている背景として、主に以下が挙げられる。
急な政策変更は無い:中国は突如ハイテク企業に対する締め付けを行ったりするが、日本にはこうした政策変更リスクは少なく、比較的予測可能である。
安定した経済成長率:ここ数年、GDP成長率は1.0%近辺で安定して成長を続けることが期待される。
安定した成長を続けるPE/VC市場:世界的な減速が続くプライベートエクイティ市場だが、日本は安定して横ばいの市場規模を保ち続けている。
つまり、日本市場の魅力とはその大崩れしない「安定性」にあると考えられる。経済学者の成田悠輔の言葉を借りるとすれば、その「横ばい力」にある。
日本市場の安定性は、中国市場の成長性を決して代替できるものではない。だが、相場や市場動向が読めない中、安定性は大きな魅力となる、2024年は引き続き先が読めない市場環境が続く中、「安定性」が魅力となる日本のPE/VC市場・さらには上場市場の成長は続くような予感がする。