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才能より努力が重要。だが努力できるかどうかも才能だ、という身も蓋もない論文を見つけた
米国の心理学者であり、元数学教師であり、元マッキンゼー勤務のコンサルタントであったアンジェラ・ダックワース氏は、かつてTED Talkの中で「成功のカギはやり抜く力だ、努力だ、才能ではない」と力説した。その内容に大いに感銘を受け、誰でも努力次第で成功ができるんだ、と大いに勇気づけられたのは私だけではなかったはずである。
だが、もしそのやり抜く力や努力する力さえ、実は才能だとしたらどうするか。2023年12月、アムステルダム大学の教授により発表された論文では「努力できるかどうかは遺伝的要因が大半である」という身も途方もない衝撃的な事実が記載されていた。
要旨はおおよそ以下の通りである。
・アンジェラ・ダックワース氏を始めとする多くの研究者は自制心(Perseverene)とやり抜く力(Grit)は一般的に学業成績と関連しているとしている。
・Kevenaarによれば、自制心とやり抜く力で、学業成績の28.4%を説明できると発見している。
・しかし、この自制心とやり抜く力は、おおよそ遺伝的影響に起因するということが明らかになった。
これが本当であれるとすれば、我々の「やれば誰でもできる」という神話は科学的根拠のない神話になってしまう。
スポーツも音楽も数学も記憶力も、人それぞれ元々有している能力は異なっているが、自制心、やり抜く力、努力する力といったソフトスキルだけは、誰でもが意識次第・訓練次第で持ちうる能力であると考えてきた。だが、このソフトスキルさえも遺伝的要因による、つまり才能なのであるとしたら、もはや努力を強いても無駄だ、という結論に至ってしまう。
もっとも、こうした結果は実はうすうす勘づいていたことであることも事実だ。例えば英語で言えば、単語や文法を覚える、といった一定のエネルギーを注げば誰でも一定の結果は出てくる教科であるにもかかわらず、そもそもの努力をしない者は多数いる。なぜか。この論文の結果に基づけば、そもそも努力する才能を持ち合わせていないから、なのである。
努力する力、自制する力も全て遺伝的要素で決まっており、訓練しても身につかないものだ、という考えが世の中に広まるとしたら何が起こるのだろうか。ある者はそもそも勉学やスポーツを諦め、その出自や遺伝子的要因で、それぞれの人が社会で担う役割が固定化される世界になってしまうのだろうか。
自分の子供に「努力できない遺伝子」がある、とわかった時点で子供の教育を諦めてしまうような世界になってしまうのだろうか。
残酷な世界である。