「優良な育成就労実施者」のメリットと要件について思いを巡らす
行政書士・社会保険労務士の長岡です。少し前に育成就労計画に関する記事を書いてみました。
例によって反応ほぼなしですが、めげずに続編を書いてみます。
まずは現行制度(優良な実習実施者)の確認から
2017年11月に技能実習法が施行され、現行制度が始まりました。技能実習生を保護するために厳しい要件が設けられる一方で、それまで2号までだった技能実習に3号が追加されました。この改正によって、日本の企業が実習生を受け入れることのできる年数が、3年間から5年間に延びたわけです。
ただし、3号の技能実習生を受け入れることができるのは、「優良な実習実施者」に限られています。ようするに、「きちんとやっている会社なら実習生を5年まで雇えますが、そうでなければ3年までですよ」という仕組みです。
育成就労制度は3年間になるので
育成就労は、特定技能人材の技能水準(と日本語能力水準)を目指して、技能者を育てていく制度です。ですから、技能としては特定技能1号開始時の要件である、検定3級レベルがゴールになります。つまり、現行の1号と2号だけで完結する仕組みです。
実際には1号と2号の区分もなくなりますが、なによりも「3号廃止」のインパクトが大きいのではないでしょうか。
優良な実習実施者には、「受入れ人数枠の拡大」というメリットもあります。でも、特定技能の人材が長期で在籍してくれるのであれば、育成就労外国人の人数はそこそこでも足りそうです。そう考えると、人数枠の拡大だけでは、優良を目指す動機として弱いように感じます。
なお、現時点では、優良のメリットとして「手続の簡素化等」が示されているだけです。しかし、多少の簡素化では、あえて優良を目指す気にはならないでしょう。
優良要件は満たせるに越したことない
実習実施者の優良要件には様々なポイントがありますが、だいたいは実習生が日本で「働きやすく」「過ごしやすく」なる方向で定められています。
ですので、「取り組んだほうが良い」ことには違いないのですが、正直、受入企業の負担増につながる部分も多いです。だからこそ、達成に対する明確なメリット(現時点では3号の受入れ)が必要なのでしょう。
そんなわけで、育成就労制度が3年間になることが判明したころから、「優良要件はどうなるんだろう?」とひそかに思っていました。でも、先日の記事を書いているうちに、答えが見えてきたんですよね。まあ、私が勝手に考えているだけなのですが。
これが優良な育成就労実施者の優遇措置だ!
まずは、「育成就労計画の簡素化」です。前の記事でも述べたとおり、建設特定技能受入計画くらいのイメージですね。
さらに、日々の業務も「必須業務が2分の1以上」などと細かく指定せず、ある程度は優良な受入企業に任せると。いうならば、「担当業務の柔軟化」ですね。これは受入企業にとって大きなメリットだと思われます。
逆に、優良の認定を受けていない育成就労実施者には、現行制度と同じレベルの育成就労実施計画書(年間スケジュール)を提出もらいます。そして、育成就労外国人には、計画に沿った作業を担当してもらうと。
優良要件はこんな感じで
もちろん、特定技能人材(検定3級レベル)まで育てるための制度なのですから、その目的から外れてしまうのはまずいでしょう。ですから、検定合格率は引き続き重要な要素になると考えられます。
というわけで、他の要件も含めて現行制度からの修正案を考えていきましょう。
① 技能等の修得等に係る実績(70点)
まずは検定関係の実績です。
ここは引き続き配点を高めにするだけでなく、いわゆる「足切り」も設定するべきだと思います。他の部分で点が取れても、検定の合格率が悪い会社は優良になれない仕組みです。
なぜそこまで厳しくする必要があるのか……ちょっと脱線しますが、育成就労制度について2点補足しておきます。
まず、育成就労の3年間で特定技能1号の要件を満たせなかった(検定3級と日本語N4レベルに合格できなかった)場合、1年間は在留資格「育成就労」のまま延長できる予定なんですよね。そうすると、「うちは4年いてくれれば御の字よ」と考えて、まともに仕事を教えない企業が出てきてしまう恐れがあります。
また、検定基礎級+N5に合格すると、1年経過後に本人希望の転籍が認められる制度も予定されています。これに対して、「転籍されたら困る」ということで、あえて合格させない企業が出てきてしまうかもしれません。
上記のような企業を出さないためにも、優良のメリットを大きくしたうえで、検定関係の実績を重要な要件にすることが必要だと考えています。
② 技能実習を行わせる体制(10点)
技能実習指導員と生活指導員の講習受講歴です。
技能実習指導員は「育成就労指導員」になるんですかね? それはともかく、いずれも技能実習責任者と同じように、法定講習の受講を必須にしてもよいのではないかと考えています。ただし、優良な育成就労実施者に所属する指導員は、2回目以降は「短縮版」も可能にするとか。
余談ですが、法定講習の受講者が増えたらオンラインが基本になって、しかも現行のようにライブ必須ではなく録画OKになるのではないかと予想しています。
(私の仕事がなくなるわけです)
③ 技能実習生の待遇(10点)
最低賃金への上乗せと、各段階での昇給率などです。
初年度の賃金と最低賃金の比較は必要でしょう。1号と2号の区分はなくなるので、各年度の昇給率を反映させることになりそうです。
④ 法令違反・問題の発生状況(5点から減点)
失踪の発生などが影響します。
改善命令はここ何年か出ていませんが、減点項目として残しても問題はないでしょう。失踪については、受入企業に問題がある場合だけ減点でもよい気がします。
個人的には、ここに「労働災害の発生状況」を入れたいところです。
⑤ 相談・支援体制(45点)
母国語相談と転籍支援の実績です。
マニュアルは監理団体が作ってくれるでしょうから、点を付ける意味はあまりない気もします。社内に母国語相談できる人がいると助かるでしょうから、このポイントは残りそうです。
コロナ禍によって新設・拡充された転籍支援のポイントですが、これは自社の努力だけで達成できない部分もあるので、個人的にはそろそろ縮小するべきではないかと考えています。コロナ禍も落ち着きましたし。
⑥ 地域社会との共生(10点)
地域に溶け込んでいけるような活動を促す部分です。
日本語学習の支援については、日本語能力試験や日本語基礎テストの合格実績で評価すると、目標がより明確になるのではないでしょうか。今後はますます重要な要素になりますので、もっと配点を高くするべきかもしれません。
地域活動への参加も、地域の人たちと仲良くなるのに有効でしょうから、こちらも残すべきだと思います。
政策担当者ではないのでテキトーな部分もありますが、だいたいこんな感じでしょうか。
おわりに
今回も私の空想を語るだけの内容になってしまいましたが、関係者の目に留まればいいのになーと思っております。