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「これが長浜の今の味」養蜂家・塩のり子さんに突撃してきた

こんにちは!「長浜森の生活史」第9弾は、びぃふぁむ みつばちの雫代表の塩のり子(しおのりこ)さんにインタビューをしました。
ハチミツのおいしさの秘訣を探りに、塩さんが課外授業で登壇した高校の授業にお邪魔してきました。
今回も楽しんでお読みください!

塩のり子さん(塩さん)
1973年生。滋賀県長浜市出身。びぃふぁむ みつばちの雫代表。25年間の介護職を経て、2022年に養蜂家として独立。長浜市内にて、セイヨウミツバチの飼育とハチミツの販売を行っている。

聞き手:渡邊咲紀(さき)・土屋百栞(もも


おばあちゃんの畑で養蜂

もも:先ほど塩さんのハチミツを味見させてもらいました。とっても美味しかったです!
塩さん:ありがとうございます。私と夫で、長浜市内でセイヨウミツバチを育てて、採れたハチミツを販売しています。養蜂を教えてもらった師匠から独立して、今年で3年目ですね。
私たちは、ミツバチがいろんな蜜源から採ってきたハチミツを、月ごとに分けて販売しています。例えば、4月はレンゲ、5月はフジ、8月はカラスザンショウといった蜜源を中心にハチミツが採れるので、味が月ごとで全然違うんです。そのように、ハチミツを通して季節の味をお届けしています。

授業で採蜜したハチミツを、味見!

さき:ミツバチの巣箱は、どこに置いているんですか?
塩さん:長浜市内の各所に置いています。条件としては、巣箱のそばに車を停められて、なるべく太陽が当たるところ。平地だとありがたいですね。置いているところの1つに、私のおばあちゃんがかつて畑をしていたところがあります。今はススキ野原になっているんですが、おばあちゃんの畑の手入れのたまものなのか、山の様子がいい感じなのか、なぜか土がふかふかですごくいい状態なんです。そこは、最高の巣箱の置き場所ですね。

ミツバチの巣箱たち

ハチミツパンケーキのカフェを夢見て

もも:養蜂をする前は、何をされていましたか?
塩さん:25年くらい、ずっと介護の仕事をしていました。幼少期にさかのぼると、両親が共働きだったので、おじいちゃん、おばあちゃんに預けられていた時間があったんです。2人は農家ではないけれども、よく農作業をしていました。稲を手で刈って、藁できゅっとしばって、天日干し(はざかけ)をする作業を一緒にやったりしました。よく、田んぼの端っこにある、物置の代わりにしていた壊れた車の中で遊んでましたね。そんな幼少期の体験からか、年配のおじいちゃん、おばあちゃんと話すとホッコリするというか、癒やされるんです。
そんな理由もあってか、母が看護師だったので看護の道も考えましたが、介護の方が、ご本人やご家族の想いに添った人生の最期に関われると思ったので、介護の道を選びました。

塩さんの母校の伊香高校にて登壇

さき:そこから、どうして養蜂をしようと思ったんですか?
塩さん:いろいろな理由がありますが、介護の仕事以外で、自分が人生の最後まで続けていける何かを始めようと思ったのが、きっかけです。「もっと家族との時間を持ちたい」「自分の作ったもので評価されて収入を得てみたい」といった思いもありました。
最初に考えたのが、自分の育った田舎でカフェを開くことでした。「田舎のロケーションで、ちょっと分厚いパンケーキにハチミツたっぷりかけ放題」みたいな、今から思うと安易な考えを思い描いていました(笑)。
当時は、大津の病院に通う家族に付き添って、定期的に大津に行っていました。そこで、安易に思いついた「養蜂」を検索して出てきたのが、大津に住む養蜂家の師匠なんです。そこから師匠に連絡して、師匠のもとで4年間修行を積みました。
最初は、本当に下手くそでした。巣箱を触りすぎて女王バチを殺しちゃうとか、すぐにハチがいなくなっちゃうとか、そんなことばかりでした。

ミツバチをお世話する塩さん

さき:巣箱を触りすぎたというのは、様子を見すぎたということですか?
塩さん:そうです。様子を毎日見てたんです。だけど、実際は1週間に1回で十分なんです。ミツバチが自分たちで管理しているのに、様子を見すぎちゃうと、巣箱の中が冷え込んでしまったり、ハチをつぶしてしまうんです。
正直、しっかりしたハチの群れと豊かな自然さえあれば、ハチミツは採れるんですよ。越冬させるとか、ハチを安定した状態で通年、飼い続ける技術が1番難しくて、そういう技術を身につけるのに時間がかかりました。

介護と養蜂は一緒

塩さん:実は私、虫が大の苦手なんです。ミツバチ以外は、カメムシが家の中を歩いているだけでもう嫌です(笑)。
そんな虫嫌いの私ですが、師匠のところで初めてミツバチを見せてもらったときに、「かわいい!!」と思ったんです。指に止まった状態のミツバチがもう大好きで。7年養蜂をしていて、いっぱい刺されてるんですが、本当に愛おしいです。
もも:私はハチに刺されたことはないのですが、「ハチ=刺してきて怖い」みたいな思いがずっとありました。でも、さっきの授業でハチの観察箱を見させてもらったときに「かわいい~!」と思いました。
塩さん:そうなんです。お世話が終わったあとは、ずっとミツバチたちを見ながら、ぼーっとして癒やされているんですよ。飼っている犬や猫を愛でている感じです。実は、ミツバチの書類上の申請は「家畜」で、牛とかと一緒なんです。

塩さんが愛でているミツバチたち

塩さん:私にとって1番嫌いな作業は、ハチミツを採るときです。巣を取り出して、蜜蓋を切って、ハンドルをぐるぐる回して、蜜を採るという作業なんですが、それは1番機械的な作業だと思います。ハチを愛でる時間がないので、温かみがないんです。
ハチミツは、私たちが生きていくためにハチから分けてもらっている食料なんですが、私はハチミツを採るよりハチのお世話をする方が楽しいです。介護と一緒で、何かミツバチに問題が起こったときに、自分なりに考えた方法を試してみて、ミツバチが健全になってたり、状態が落ち着いたりすると「間違ってなかったな」と思います。その繰り返しが楽しいんです。
もも:25年間の介護の仕事と、今の養蜂の仕事は、「お世話をする」という点で共通項があるんですね。
塩さん介護も養蜂も、観察なんです。「病気していないかな」とか、「どういうことをしてあげると生活が楽になるのかな」って、どっちの仕事も、人やハチを観察しながらそういうことを考えていますね。

味見、してください!

もも:採れたハチミツは、とこで販売しているんですか?
塩さん:主にマルシェで販売しています。売り先は、「どれくらい売れるか」で決めるよりは、人と繋がっていけるようなところや、長浜をPRできるところを選んでいます。お客さんがハチミツの味を試して、そのハチミツや養蜂家が好きになって、リピートする、という販売がいいなと思っています。
なので、味見をしない人にはなるべく売りたくないんです。持って帰って、期待通りの味じゃなかったときに「美味しくない!」ってなりかねないですから。
もも:たしかに、そば蜜のようなクセの強いハチミツを、味を知らずに買ってしまったらまずいですね(笑)。でも、お客さんの立場では、「そんなに味見していいんですか?」と心理的にためらってしまいます。がめついかなって。

月ごとに、かぶせ紙の色を分けて販売

塩さん:私は逆に、「味見をせずに買っていって大丈夫ですか?」って思います。なので、「味見して美味しくないと思ったら、無理してお愛想で買わなくていいです」とお客さんには伝えていますね。
ただ、味見をしてもらったら、それを気に入ってくれる人が多いんですよね。実は、ベーシックな味のレンゲやアカシアは、うちの売れ筋ではないんですよ。変わったハチミツの方が売れるんです。例えば、クリのハチミツは苦手な方が多いんですが、昨年の9、10月にびっくりするほど売れました。「マロンクリームみたい」って女子に大人気でした。
よく「今年もあの味ありますか?」って聞かれますが、去年とまったく同じ味はないです。ミツバチが作る自然のままの味なので、同じ味になることはありません。気温や山の様子が毎年変わるので、同じものはできないです。数年に一度しか咲かない花もありますから。ワインのように、年によって良い出来・悪い出来があります。
さき:だからこそ、買う前に毎回味見をする必要があるんですね!

新しい長浜のお土産になったら

さき:塩さんが、今後やりたいことはありますか。
塩さん:まずは今の養蜂を、とにかく長く続けていきたいですね。その上で、うちのハチミツが新しい長浜のお土産になったらいいなと思います。このハチミツを通して「長浜の今の自然の味」を味わってほしいです。「長浜ってこんなに自然が豊かで、こんなハチミツが採れるんだよ」っていう会話が生まれる手土産になると楽しいなと思っています。
もも:長浜にこだわっているんですね。
塩さん:長浜を1人で勝手に背負っているんです(笑)。ハチミツを一通り味見してもらったあと、「こんな味があるんですね」とか「美味しいです」と言ってもらえたときに、「これは長浜が作り出した味なんです」と言えるのが、私にとってはすごい満足なんです。自分が作り出したものが評価されて、さらに長浜も評価される。そういう喜びは、断然ありますね。

伊香高校さんでお話を伺いました!ありがとうございました✨

編集後記(もも)
塩さんのミツバチ愛を、ひしひしと感じた半日でした🐝
「美味しい顔って、すぐわかるんですよね」と話す塩さんには、いろいろな味を試食させてもらった私たちの好みまで見抜かれていたはず・・・(笑)。
ちなみに私は、皐月のハチミツが好みでした💖
マルシェで塩さんを見かけたときは、ぜひ、自分好みのハチミツを見つけてみてください♪
次回は、2025年4月から新学科「森の探究科」を設立する、滋賀県立伊香高等学校、森の探究科チームにお話を伺います。次回もお楽しみに!

<聞き手・ライター>
渡邊咲紀(さき)
1998年生。余呉町生まれ、名古屋育ち。2019年に出生地である余呉町に戻る。現在は、長浜市内の農園に勤めている。

土屋百栞(もも)
1997年生。茨城県出身。2022年秋より、長浜市の地域おこし協力隊に着任。森林浴などの活動を通じて、自然との結びつきを感じる機会づくりを模索している。


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