![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/153813390/rectangle_large_type_2_9853d442acb267d895c4a1caaeac137e.png?width=1200)
新潮新人賞落ちた
第56回の新潮新人賞に応募していたんだけど、予選通過できなかった。
今回は、3作品応募して、全部だめだった。
落選した作品が本当にだめかというと、そうではない場合もあると思う。たまたま、作品自体がだめなのではなく、相性が良い、悪い、賞によってそこは違うよね、ということは、よく言われている。
ただ、今回、わたしが応募した3作品は、すべて、ことごとく、だめだった。これは、自信を持って言える。すごく、だめだった。
読み返してみて、今のわたしが、そう思ったのだ。書いているときには、のりのりで、楽しく書いていたんだけど、読み返したら、最初から終わりまで、まったく、ことごとく、だめだった。
具体的に、だめだった作品の書き出しを、戒めのために、掲載します。長くなるので、ここは読み飛ばしてもらったり、最後だけ読んでもらったり、あとで読んでもらったりしたほうが、よいかもしれませんし、読まなくても大丈夫です。
1作目「剥がして食べる」の冒頭
校舎に囲まれた中庭には石で作られたテーブルと椅子があり、今はそこにヒデとアキナがいる。
昇降口では文化祭をやっている最中に先輩が麻雀をしていて四人の先輩のうちの一人をアキナはアルバイト先の人に紹介される。昇降口でヒデが同じクラスの男子といて、アキナは、ヒデがいる、と思う。アキナはこの高校に入る前、中学三年の時視聴覚室でヒデが何人かの男子と固まって座っていて、視聴覚室に集まっていたのはアキナが志望している高校に同じく志望している人たちだったから、それでヒデが同じ高校に入りたいと思っていることを知った。
家から電車で高校の最寄り駅まで行って、自転車はその最寄り駅に置いて駅からは自転車に乗って通学します、と先生に通学方法を訊かれたからアキナは答えたら、ヒデが座っていたテーブルとは違うテーブルに固まって座っていた男子たちの塊からさわさわと笑い声が沸いた。アキナが行きたいと思った高校は最寄り駅からもかなり遠くバスも近くには無く、電車を使わずほとんどの生徒が家から自転車で通っている。場所が悪いのと他にもさまざまな要因があり、アキナが入ることになるその高校は元々偏差値がそれほど高くはなかったのが五年、十年経つとぐんぐん下がり、定員割れするようになる。
ヒデもアキナも学校推薦で入学したいと思っていて、それで高校に試験を受けに行って、推薦で受かったのはアキナだけでヒデは落ちて一般入試で入った。
視聴覚室で、ヒデはアキナに話し掛けてきて、何を話し掛けられたかはアキナは覚えていない。ヒデとアキナは幼稚園も小学校も一緒で、小学五、六年生の時は同じクラスで、中学では同じクラスになったことがなかった。クラスが別れてからは話をする機会がなかったので、アキナはヒデが話し掛けてきたことを意外に思った。同じ高校に進んだ中学の同級生、男子はヒデを含め七名、女子はアキナを含め三名、男子が多いのは部活動の推薦の人がいるのと、女子が少ないのはやはりその通学方法が自転車に限られているということにおいての体力の問題で、七名いる男子の中でアキナがヒデに特に親しみを感じていたのは、その中学の時の視聴覚室で話し掛けられたからだった。
2作目「トレーニングセンター」の冒頭
遠くにわたしが、母とベンチに並んで座っている。
ベンチの前には野球場があって、高いネットがわたしと母の目の前にあり、色は白か緑で、光の加減でそう見えるのかもしれないし、白か緑のどちらかなのかもしれない。野球場の土は焦げ茶色で湿っているように見えて、それは前の日に雨が降ったからかもしれないが、降っていなくて元からそういう色なのかもしれない。
その公園にある野球場ではわたしの同級生の何人かが野球をしているはずだった。その姿を見たことはないし、母とわたしが座るベンチの前の野球場には誰もいないのに、白いユニフォームを着て黒い背番号を背負い、藍色のキャップを被った少年たちが、二列になって球場内を走っていた。
体の前面に薄く太陽の光が照らし、額や脇の下に汗が滲んでくる。なんだか腹の辺りがきつく、苦しいように感じる。気のせいかもしれない。
母はずっと何かわけのわからないことを言っている。聞き馴染みのある声、発音、息継ぎであるはずなのに、母が発しているひとことひとことの、どの部分も、まったく聞き取れない。宇宙空間に浮いているスピーカーから漏れ出ている音楽のようだった。
母はわけのわからないことを言っているその口で、かつてはわたしにホットケーキの作り方だって教えていたはずだった。今度はアイスクリームを作るのだと、張り切って大きな冷凍庫がついた冷蔵庫を買ったのに、一度作っただけで止めてしまった。
やっかいなのは、母がわたしを産んだと信じていることだった。母は、自らと父とが原因となり、今隣でベンチに座っているわたしが存在していると、思い込んでいた。どれだけ話しても、この誤解は解くことができないのだということを知っているので、なにも話す気になれない。母はずっと口をもごもごと動かして、わけもわからず喋っている。
3作目「アゼルバイジャンの子犬」の冒頭
土曜日の午後、いつものファミレスに新藤くんといて、新藤くんが先週釣りに行った、という話をしたので、それで睦美は、昨夜通販番組で見たルアーの話をした。
魚型のルアーの、水中での光り方とか、動き方とか、針の付き方とかが、とにかく他のルアーとはまるで違い、どんな魚でも食い付かずにはいられない設計になっているのだと、虹色に光るサングラスにキャップを被った金髪のライアンが、フェリーに乗り釣りをしながら身振り手振りを加え熱心に説明していた。実際、ルアーを海に落としたそばから、面白いように釣れていた。そんなに釣って、釣った魚はどうするのだろう。少し心配になるくらい釣れていた。
どうです、すごいでしょう?
ライアンの厚い唇から覗く、白い歯。
新藤くんはそのルアーを持っていないけど存在は知っていて、同じ種類でカエルの形のルアーもあるんだよね、とドリアの端っこをスプーンで突いた。
「普通のルアーと全然違うって、ライアンが言ってたんだよ。人間が魚だとしても、絶対に食い付かずにはいられないと思うんだよ。新藤くん、買ったほうがいいんじゃない? 大丈夫なの買わなくて」
睦美は前のめりで言ったあと、両腕で抱えていたトリプルチョコレートパフェの、天辺にこんもりと盛られたホイップクリームに細長いスプーンの先を埋めた。新藤くんは、ライアンって誰、と半笑いでドリアを口に運ぶ。
ルアーのあとはフィットネス用品の紹介が始まり、紺色のレオタードを着た金髪のオリビアが、カーブが緩いS字型をした黄緑色のクッションを床に置き、その上に寝そべり、頭を片腕で支え、天井側の足を上げたり下げたりしていた。静かなリビングに、オリビアのアップエンドダウン、アップエンドダウン、の声が響いていた。音楽に乗せて開閉する、ピングのレッグウォーマーの脚は筋肉質で、内太ももを強く噛んでも歯が入らなそうだな、と睦美は思った。
ーーーーーーーー
これらを書いたのは、群像新人文学賞の最終候補になった「可哀想な犬」を書いたあとで、「可哀想な犬」は一人称で書いたんだけど、わたしは一人称で書くことにすっかり飽きてしまって、それで、人称とはなにか、とぐるぐる悩むことになり、悩んだ末に、苦しみながら書いたのが、この3作品だった。
あれ、わたしは最初、楽しく書いた、と言っていたのに、今度は、苦しみながら書いた、と言っている。
人間とは、常に矛盾を抱えた生き物である。
わたしは、これからも、楽しみながら苦しんで書く。
長いこと書いてしまい、読んでくださって、いつも、本当に感謝しています。
ありがとうございます。
いい作品を作れるように、頑張ります。