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人見知り母さん
中学生のときテニス部に所属していて、仲のいい4人組で、学校の裏にあった市の運動場でよく練習をしていた。
コートのベンチに座り、休憩しているときは、4人でいつもたあいない話をしていた。
4人の中で、誰が一番に結婚するのか、ある日そんな話で盛り上がった。
〇〇ちゃんは遅そう、〇〇ちゃんは意外と早そう、なんの根拠もなかったけれど、みんなで予想をし合って、わたしは、みんなから、結婚が早そう、と言われた。
将来生まれてくる子どもの名前を考えよう、ということになった。
絵が得意だったわたしは、他の3人と自分の子どもを、漫画のキャラクタのようにメモ帳に描いて、その下に各々考えた名前を当てていった。
将来、本当に誰が先に結婚するのか、まだなにもわからなかった中学生のころのわたしたちは、夕暮れのテニスコートで、未来を想像して楽しんでいた。
それから10年ほどたつと、4人の中の1人が結婚して、子どもができた。
わたしは、その友だちの家に遊びに行った。
部屋の中でボール遊びをしていて、友だちの子どもは、何度も投げて、わたしは何度も拾う。
もう1回、もう1回!
友だちの子どもは、何度でもボールを投げ、その都度、わたしは拾った。
これは、大変だ!
子育ての苦労は、なんとなく想像はしていたけれど、実際には、もっと体力と精神力がいるのだと、そのとき痛感した。
それに、わたしは、子どもと接するのが、あまり得意ではなかった。
親戚の小さい子と話すにも、どういう表情をしたらいいのか、なにを喋ったらいいのか、わからなくて、妙に緊張してしまい、ぎこちなくなってしまう。
このお姉さん、変。
と子どもから思われているのではないかと、勝手に考えが止まらなくなり、余計に固くなってしまうから、いつもうまく交流できなかった。
わたしが結婚したのは、テニス部の4人の中で最後だった。
子育ての大変さも、子どもと接することに対する苦手意識も、自分の子どもとなれば、自然と克服できるもの、そう楽観的に考えていた。
そして、実際に子どもができてみると、子育ての苦労は想像以上だったし、あと、もっと予想外だったのは、自分の子ども以外の子どもに、人見知りをしてしまう、ということだった。
子どもがいるお母さんというのは、他の子どもにも優しくほがらかで、学校帰りの子どもを見かけたら、どこの子だとしても「おかえりー!」と声をかけるもの。
というのは、わたしが子どものころ、道でたまたま会う近所のお母さんたちが、そうやって声をかけてくれていたからだ。
それなのに、わたしときたら、自分に子どもがいるにもかかわらず、他の子どもに声をかけるのを、ついためらってしまう。
顔はひきつり、声はうわずり、そんな状態で「おかえり」と言っても、このおばさん、変、と怪しまれるのではないかと、不安になり、子どもが歩いていそうな道を、わざわざ避けたりしている。
大人になって、結婚して、子どもが生まれても、まだ人見知りしている。しかも、子どもや赤ちゃんにまで。
というのは、中学生のころ、テニスコートのベンチで喋っていたときには、想像していなかった。
いつまでも、もじもじしていてもしかたがないので、変だと思われてもいいではないか! と吹っ切って、子どもたちにも大人たちにも、元気に挨拶ができる人間になりたい。なれるように、頑張ろう。