俳句を読む:『Υ(ユプシロン)』No.3、津川絵理子句集『夜の水平線』
ご恵贈いただいた二冊。
大変遅くなりましたが、
どうもありがとうございました。
頂いた順番にご紹介させていただきます。
◆『Υ(ユプシロン)』No.3
レモンイエローの表紙。
年に一度の再会が嬉しい。
頁を開くと、四者四様の作品が静かに広がっていて、
届くたびにこちらの背筋も伸びる。
以下、感銘句をお一人・三句ずつ(敬称略)。
仲田陽子「レモンの熱」
ブロックの塀途切れたり猫の恋
下描きの線うっすらと山法師
トルソーは胸に白息ためており
中田美子「空白」
筋書きのいくつか混ざる夏の月
帳面の余白に走るすすきかな
秋天の象より伸びる象の鼻
岡田由季「天使幼稚園」
観梅へ誘ふ切手の組み合はせ
胡桃から胡桃以外の音がする
水鳥に会ふときいつも同じ靴
小林かんな「自動水栓」
紫陽花やクリーニングの空き袋
大瀑布眠らない椅子白い椅子
白菜の断面ふたつ天へ向く
中田さんがお書きになる「あとがき」は
いつもこちらの胸をはっとさせる。
新しい風を入れてくれる。
屹立した透明な言葉たちに囲まれる喜び。
少し距離のある先輩たちを眩しい気持ちで見ていた
十代の頃のような気持ちにさせてくれる一冊。
◆『夜の水平線』
一章から一句ずつ。
受話器置く向かうもひとり鳥渡る
時雨るるや新幹線の長きかほ
たどりつくところが未来絵双六
レコードを選る涼しさの指二本
ジェット機の音捨ててゆく冬青空
病院の廊下つぎつぎ折れて冬
鏡餅開くや夜の水平線
サーカスのうしろ船ゆく鰯雲
上記以外にも好きな句がたくさんある。
お正月、なんども読みかえしていた。
誰もがわかる言葉。
それを注意ぶかく、かつ繊細に組み合わせ、
季語とのハーモニーを大切にして織られた作品たち。
決して声高ではない。
でも確かに自分だけの「発見」がある。
「世界は、日常は、こういうふうに詠めるのか」
句集を読み進めるうちに
そんな静かな感慨が
しみじみ、しんしんと胸に広がってきて、
また最初からページを繰らずにはいられない。
とてもよい句集。
たくさんの人に読んでほしい一冊。
蛇足ながら最後に。
十年近く前、
所属結社・炎環の主宰や仲間と共に
津川さん、ユプシロンのメンバーと
京都で句会をご一緒した。
たった一回のことだが、今も大事な思い出だ。
コロナが収まったら、関西の俳人の方々、お会いしたことある人、ない方も含めて、句会をご一緒できれば。
そんな機会を待ち望みつつ、再び扉のように作品のページを捲るのです。