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【エッセイ】叔母の膝の上で食べたたい焼き

母方の祖母が営んでいた文房具店の斜向かいに、たい焼きを売っている「とらや」という店があった。一度移転したのち、閉店となり今はもう無くなってしまったが、私にとって、たい焼きといえば「とらや」だった。

3歳ぐらいの頃、文房具店で店番をしていた叔母に「おさかな食べたい」と言って小遣いをもらい、とらやのたい焼きを買いに行った。種類はあんことハムマヨネーズ、どちらも美味しいが、その頃わたしは家族から「蟻」と呼ばれる程の甘党だったので、選ぶのは当然「おさかなください、あんこ☝️」(人差し指を立てて一個くれとアピール)だった。

とらやでは、個数によってたい焼きの包装が異なる。一個の場合は白い紙(コンビニで肉まんを買った時に入れてくれるやつとほぼ同じ)、二〜五個ぐらいまでならプラスチックの四角いトレーにたい焼きを並べ、それを薄ピンクの花柄の紙袋に入れる。六〜十個ぐらいになると赤字でたい焼きと書かれた紺色の箱(ケンタッキーのチキンを入れるようなやつ)にたい焼きを並べて入れてくれた。ちなみにわたしは花柄の紙袋が1番好きだった。四角いトレーに並べられたたい焼きが、特に食欲を唆る感じがした。

今回は一個なので白い紙に包まれて渡される。
白い紙越しに伝わるたい焼きの温もりや、鼻をくすぐる香ばしい匂いに、すぐにでも齧り付きたい蟻の欲求を抑えながら、文房具店にたい焼きを持って帰る。
わたしは店番をしている叔母の膝の上に座り、たい焼きを叔母に渡す。すると叔母がたい焼きのパリッとした羽根の部分をあんこにディップして私の口に運んでくれるのだ。こんな特別待遇でたい焼きを食べたのは後にも先にもこれきりで、甘ったれた末っ子の成せる技である。

もうすぐ3歳になる甥っ子もたい焼きが大好きなので、今度は私と甥っ子のたい焼き物語がはじまるのかもしれない。チャンスを逃さないようにしようと思う。

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