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【読書】傲慢と善良【♯page1】

突然本読みたい!といった呟きをして、教えて頂いた本を読んだので、僭越ながらレビューさせて頂こうと思いこちらを書いてます。

※以下若干のネタバレ含みます。

[傲慢と善良](辻村深月著)

主人公の架は学生時代から恋人を欠かしたことがないが、結婚となると腰がひけていた。結婚適齢期には恋人がいたが、結婚を渋っているうちに愛想をつかされ、それ以降はアプリで婚活をするようになる。しかし、昔の恋人を忘れられないたまに、真実という恋人ができても結婚には踏み切れない。しかしある日、真実が行方不明になる。以前からストーカーの被害を訴えていた真実を心配し、架は真実の実家や職場なに出向き、調査を始める。

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あらすじだけを読み、完全にサスペンスやミステリーの類かと思っていた。
(辻村深月さんって、そもそもミステリ小説をメインで書いているイメージ。)
私はどんなジャンルも好き嫌いなく読める口なので、そういう気持ちで読み進めていくと物語の本旨はそこではないということに気づく。

恋愛とは、婚活の大変さ、幸せの形とは、そして、自分の意思とは。

偏った価値観が作り上げる傲慢な考え、対をなすように押し付けられた価値観が作り上げた善良な考え。
それらが1人の人間に相反するようにある。

ありきたりな言葉だけど、この作品は「情報が溢れた現代における恋愛指南書」だなあと。

人生で、他人に価値をつけたことのない‘’善良‘’な人間はいないと思う。
決して私が普段から他人を値踏みしているというわけではない。
それらの値踏みは無意識下で行われている。

例えば、初めて出会った人が恋愛の対象になる得るか、なり得ないか。
それこそTinder等のマッチングアプリで出会う際必ず無意識下で相手を値踏みするでしょう。

私もよく思っていたんです。「恋愛したいけど、相手が見つからない。」「ようやく見つかったと思っていたけど、どうにも『ピンとこない』んだよね」と。

「ピンとこないから決断できない。結婚した友人はピンとなんてくるはずない。と言われたりもしましたけど」

-ピンとこないは魔の言葉だ。それさえあれば決断できるのに。

「ピンとこないの正体は、その人が自分につけている値段です。」

「値段という言い方が悪ければ、点数と言い換えてもいいかもしれません。無意識に自分はいくら、何点とつけた点数に見合う相手が来なければ、人は、‘’ピンと来ない‘’と言います。私の価値はこんなに低くない。もっと高い相手でなければ、私の値段とは釣り合わない。」

同著より抜粋

これを読んで、私怖くなりました。
自分はどちらかといえば善良な側だろうと、勝手に思い込んでいたので。

「ささやかな幸せを望むだけで、と言いながら、皆さんご自身につけてらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、来ないの感覚は、相手を鏡のようにしてみる、皆さんご自身の自己評価額なんです。」

同著より抜粋

私は本を読んだ時に「刺さった」って表現で感想を言う人が好きじゃなかった。
けど、この発言が私にブッ刺さりすぎて、なんというか、無意識なうちに思っていただけのごくごく内の内にいた私が引き摺り出されたみたいで、読んでいる間鳥肌が止まらなかった。刺さりました。

相手に対して‘’ピンとこない‘’と思うことは傲慢なんです。
そう言って選ばないことが出来る人は‘’選ぶことが出来る人‘’だから。

「うまくいくのは、自分がほしいものがちゃんとわかっている人です。自分の生活を今後どうしていきたいかが見えてる人。ビジョンのある人。」

同著セリフより抜粋

このセリフも、今こうレビューを書いていてもなお背筋が伸びる思いでいっぱいになるくらい刺さってしまいました。

物事は複雑に見えて、単純明瞭。
求める者が求めるが故に行動し、それらを手にしていく。


架の恋人、真実は作中で親に依存され依存していた。
親という存在に固執した真美は、いい子であろうとし嘘をつかない他人を傷つけない‘’善良な娘‘’に育った。

それは相手の意思を尊重してしまい、自分の意思がない人。
そのように作中では表現されていたし私もそう思った。

そんな真実が結婚相談所で2名の人を紹介してもらい、その2名を‘’ピンと来ない‘’と評価して縁談を断っている。

架が見つけた真実のインスタについて

真実自身が写った写真も多く上がっていた。フィルターを使っているのか、少しセピアがかかったり、靄がかかったりしたオシャレな雰囲気のものが多い。
ストローをくわえ、顔をアップにした写真は普段の真実とはだいぶ印象が違って、ファッション誌から切り抜いたような滑らかな肌と輝くような大きな目をしていた。
ー中略
選んで載せられたそのどれもが、架が知っている真実とは少し印象が違う。
ー中略
無理しなくてもいいのに、こんなふうに気張った写真でなくても、元々の彼女のままで十分魅力的だったし可愛かった。

同著より抜粋

善良であったと思われた真実の自己評価は、高かった。
自分が見ている自分はこうでありたい。
架から見たら、少し違った印象で、気張った写真だった。

今のSNS社会って、まさにここで書かれている自己評価が高い‘’傲慢‘’な人が多くてそれが他者から‘’評価を受けやすい社会‘’になってる。

「なんだこの作品。こわ。」

途中まで読んでて急に語彙力を失うことを数度経て物語は最終節。
これ以上内容を引用していくとnote読んでくれた人が同著を読む楽しさが減ると思うので、控えます。

前半では架視点、後半では真実視点。

ストーカー被害の真実(シンジツ)と、その後の2人について書かれ
最後に朝井リョウの文庫解説…。

感想まとめ

まずしっかり言いたいことがあります。
これを恋愛小説として世に送り出すのは罪が深いよ。
恋愛小説だと思って軽い気持ちで読んだら気失うくらいの衝撃を受けます。
いい意味でグロすぎる心情描写に耐えれない人いると思う。

人それぞれの恋愛観があると思う。
これを読んで少なくとも私には、今まで言語化されずに内面にあった靄のような価値観が晴れた気がした。
傲慢と善良は常に現代人に内在された側面で、婚活をしたことのある人には余計刺さってしまう言語化だったんじゃないかなって思う。
私は婚活の経験は無いけど、きっとこの‘‘傲慢と善良‘’が私の選択を鈍くさせる瞬間が訪れるんだろうなって思いました。

この本を読んで、他の人がどう思うかはわからない。
それは今日まで歩んできた経験値が、今の自分の置かれてる環境が、それぞれ違うから。

みんなは自分の行動や選択が、自分の意思だって確固たる自信を持って言える?
私は読むまえは言えた。けど今はちょっと言えない。
そんな本だった(?)

ただ一つ私が言えるのは、裏アカやってる人は全員読んだ方がいい。
特に、自分は‘’善良な人間だ‘’って少しでも思ってる人。
絶対読んで。


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