見出し画像

戦略人事:新卒一括採用の崩壊の予感(初任給41万円に思う)

https://nss.watson.jp/2025/01/13/%e6%88%a6%e7%95%a5%e4%ba%ba%e4%ba%8b%ef%bc%9a%e6%96%b0%e5%8d%92%e4%b8%80%e6%8b%ac%e6%8e%a1%e7%94%a8%e3%81%ae%e5%b4%a9%e5%a3%8a%e3%81%ae%e4%ba%88%e6%84%9f%ef%bc%88%e5%88%9d%e4%bb%bb%e7%b5%a641%e4%b8%87/

■高騰する初任給の噂

2024年の春は賃金アップの話で持ちきりだったことは覚えているだろうか。実感としては、物価上昇に追いつかず実質賃金は下がり続けている。それでも、競争力のある起業は人材獲得の為に初任給をあげており、総じて数%アップをしたのだろう。

○2024 年度 新入社員の初任給調査
2024 年5月7日
東証プライム上場企業152社の速報集計 「全学歴引き上げ」は86.8%、大学卒の水準は23万9078円
①初任給の改定状況:初任給を「全学歴引き上げ」た企業は 86.8%で、昨 23 年度速報集計時の70.7%から16.1ポイント上昇。「全学歴据え置き」は9.2%となり、昨23年度速報集計時の26.1%から16.9 ポイント低下[図表1]
②初任給の水準:大学卒(一律設定)23万9078円、大学院卒修士25万9228円、短大卒20万5887円、高校卒(一律設定)19万3427円[図表3]
③大学卒に見る上昇額の分布:23 年度から「引き上げ」が 89.8%、「据え置き」が 10.2%。引き上げた場合の上昇額は「1万~1万2000円未満」と「1万4000~1万6000円未満」がいずれも14.4%で最も多い。引き上げた場合の平均上昇額は1万3746円[図表4、5]
https://www.rosei.or.jp/attach/labo/research/pdf/000087086.pdf

これに輪をかけたような報道が続いている。

○東京海上日動 初任給を最大41万円に 人材獲得競争が激化
2025年1月10日

損害保険大手の東京海上日動火災保険は来年4月に入社する大学の新卒初任給を最大で41万円に引き上げる方針を固めました。転居を伴う転勤などが条件ですが、初任給の引き上げによる金融業界の人材獲得競争が激しくなっています。

関係者によりますと、東京海上日動火災保険は来年4月に入社する大学の新卒初任給を総合職で現在のおよそ28万円から最大で13万円引き上げておよそ41万円にする方針を固めました。

転居を伴う転勤に同意し、自分の本拠地を離れて勤務する場合が対象で、大学院卒も現在のおよそ30万円から最大でおよそ43万円に引き上げるということです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250110/k10014690571000.html

40万円は極端にしても30万円を標榜している企業もある。

しかし、これは浮かれるような話ではない。

■崩壊する従来賃金制度

仮に、昨年の初任給が25万円で今年が30万円だったとしよう。その時に、何が起きるだろう。考えられることは3つある。

①一律に賃金カーブを底上げする
 昨年の新入社員の賃金をはじめ、全体の賃金カーブの最低ラインを30万円にして、総賃金コストを勘案しながら緩やかな賃金カーブを設計する。すでに支払っている賃金の極端な減額ができない以上、年齢に差のない賃金カーブとなるだろう。そのため、単に年齢が達していると言うだけの高給とりはリストラの対象となり、今年も加速することになる。

②昇給のない賃金カーブ
 かつてCSKと言う会社がそうであったように、最初の初任給のまま10年ほど(おそらくは現行で30万円まで)は賃金アップをしない。若年層の賃金コストはかかるが財務的な負担はそれほどでは無い。もっとも、世間相場と逆転するのは5年ほどになるので離職率は増える。

③ジョブ型雇用に移行する
 昨年から話題になっている「ジョブ型」を配慮した人事制度への完全移行を準備することであろう。それは単にジョブディスクリプションを定義すると言うことではない。どのような仕事を期待し、その成果を測る指標をあらかじめ合意するプロセスが必要になる。報酬を個人と組織が合意するプロセスがあれば、「彼がいくらもらっているか」をうらやむ必要は無い。

いきなり③のジョブ型に移行しないにしても、①、②はいずれ行き詰まることは明らかである。40歳以上のリストラが進めば、それを見た30歳代の定着率は下がり、現状の転職を支援するメカニズムが発揮されて、魅力のない組織の人的資源は流出する。

それを前提とするならば、従来の人事制度からの革新はいずれ必然になるだろう。

■人事部門の向かう先

経営環境の変化のスピードは速く、既存事業の高度化と変質、あるいは新規事業の試行錯誤はどの企業においても課題であろう。そこで働く人々の多様性もどんどん加速する。そうした環境下で、全社で一律の「人事制度」は機能不全になる。

一般的に人事施策は、調達(採用)、配置、教育、評価・報酬が含まれる。
これを企業の1部門ですべて賄うことは無理である。
機能分化をするべきである。
個別運用的なことは各部門で、共通のオペレーショナルな処理は人事部門で、戦略的なことはCHROを中核とした企画部門で考えてはどうか。

採用・調達・配置は各部門の人事戦略室で行なう。
個人毎の仕事の管理と報酬やキャリア支援はマネージャーが行なう。
マネージャーはそれ以外はしない。

人材の流動化を前提とした仕事の設計とパーソナルマネジメントがマネージャーの仕事になり、これを人事部門が支援する。

全社の人事部門は、個別の人事制度を扱わない。各部門で人事制度を作れるように支援する。そのために、HRM施策をレゴ化し、組み合わせて管理できるように標準化を進めるべきである。

各部門に合わせた報酬のあり方、採用のあり方などの哲学の部分からの設計支援である。
これでこそ戦略人事になるのではないか。

いつまでも生殺与奪件を握ってふんぞり変えるのは辞めた方が良い

2025/01/13

いいなと思ったら応援しよう!