規格要求事項の私的解釈:「0.1 一般」(統合されたマネジメントシステムなどあり得ない)
少し乱暴な意見だがあくまでも個人の意見なので、いわゆる一般的な認証機関の考え方ではないことを断っておく。
■○○経営
よく○○経営という言葉を聞く。最近のはやりでは「パーパス経営」「人的資本経営」だろうか。ISOがまだ過度な期待がされているときには「環境経営」「品質経営」などという言葉も聞いたことがある。
そんな言葉が意味を持つことはない。経営の責務としてそれらがあるとしても経営の基軸にそれがあると言うことはない。
組織論で云えば、企業は、「ある目的」を達成するために、これに賛同した人々が集まり、統制のとれた活動を行う集団と定義される。そのための最上位の規範は起業理念と言われ、これを当面の方向性を経営理念として表現し、いわゆるビジョン・バリュー・ミッションに展開され、その実現のための戦略に展開される。
企業活動は、これを背景として経営資源の再生産と極大化を目指すことになる。その際に何を戦略の中核に置くのかは企業を取り巻く内部・外部の環境で決定される。
しかし、何を重視するかはともかく、「経営」は「経営」であり、修飾子を付けるものではない。なぜなら、経営環境が常に変わる以上、重点項目も変わり続けるであろうし、重視する視点も複合化された中での経営判断で動かすことになる。単一の指標で経営が動くわけがない。
■マネジメントシステムとは何か
マネジメントシステムとは何かと問われたときには以下のように答えることにしている。
マネジメントシステムは、「組織」「機能」「規範」で成り立つ企業活動の最適化を志向した指針である。
組織とは、目的性を持った集団を統治するための意思決定メカニズムを持ったシステムを指す。それは責任と権限が明確になっていることが条件となる。
機能とは、いわゆるバリューチェーンのように価値を生み出すためのプロセスの分化である。一般的には部門構成がこれを反映する。
規範とは、各人が活動の責任と役割を明確にし、誰がいつどうやってと言った5W1Hを明確にしたものである。定款、契約書、規則、手順書などがある。暗黙的な規範もあるが、多くは慣習に基づいたものになる。
こうした枠組みは、およそ企業と名乗っている以上どのような企業でも満たしている。
また、あらゆる企業は存続している限り、その時々ではベストプラクティスを選択している。それでも、企業がその統治を確実にするためには普遍的な活動があると考えて指針を出すのがマネジメントシステムの枠割りになる。
その枠組みは
・我々はどのような戦場で戦っているのか。それはどのようなものなのか。
これに応えるのが箇条4である。
・組織を率いる責任者としては、組織と所属する構成員に対し何をコミットすべきか。
これに応えるのが箇条5である。
・彼らを導くためにどのように方向性を示すか。
これに応えるのが箇条6である。
・彼らが能力を発揮できる環境をどのように整備するのか。
これに応えるのが箇条7である。
・彼らの活動規範をどのように設計するのか。
これに応えるのが箇条8である
・我々は旨くやったのか
これに応えるのが箇条9である
・明日に向かって何をすべきか
これに応えるのが箇条10である。
何も難しいことはない。
■統合マネジメントシステムという誤謬
こうしてみると、環境、品質、情報セキュリティというテーマ性はあったとしても統治すべきフレームワークに違いは無い。基本は、顧客や市場に価値のあるものを生み出し利益を創出し、再配分と強大化を目指すという経営活動に変わりは無い。
その中で、社会的な責任を果たす(例えば不良品を出さない、法令を守る、事件・事故を起こさない、商品が届かないなどを起こさない、など)事が求めらるが、それは個別の事情に合わせてサブの統治機構を作ればよい。
すなわち、主たるマネジメントシステムは一本でよく、個別の課題対応についてはサブのマネジメントシステムで良い、例えば、箇条8について、箇条6,7を含めて標準化して、箇条9で必要な情報を出力すればよい。
企業活動は、品質のため、環境のためなどと云って区分して業務を行なっていない。
認証にしろ、審査にしろ、内部監査にしろ、“業務”と言う視点で見れば同一の企業活動である。
マネジメントシステムは常に一つである。複数のマネジメントシステムが統合するなどと云うことはあり得ない。
■規格の再発見
以上の視点で、ISO9001:2015という規格を眺めると発見がある。
0.1 一般
この規格は,次の事項の必要性を示すことを意図したものではない。
-様々な品質マネジメントシステムの構造を画一化する。
-文書類をこの規格の箇条の構造と一致させる。
-この規格の特定の用語を組織内で使用する。
品質マネジメントシステムに様々なものがあるかどうかは分からないが、その意図した機構を含む限り、どのようなものでも良いと言うことを示唆している。マネジメントシステムの構造も、それを言語化したものも画一化する必要も無いし、用語も自社に合わせて使えばよい。その目的性が合致すれば「内部監査」も「業務棚卸し」と銘打ってもよいし、「毎月経営会議」を「マネジメントレビュー」と呼んでもよいだろう。
現在、すでに「品質マニュアル」を構築してしまっている企業で、複数のマネジメントシステムの統合に悩んでいる企業は、いったん、MSS(共通テキスト)準拠で考えてはどうだろう。
ISOの共通テキストとは、ISOのマネジメントシステム規格に共通する規格構造を取りまとめた文書で、MSS共通テキストと呼ばれます。合同技術調整グループ(JTCG)とISO/TMB(技術管理評議会)によって開発たもので下記の構成となっている。
箇条4 組織の状況
4.1 組織及びその状況の理解
4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解
4.3 XXXマネジメントシステムの適用範囲の決定
4.4 XXXマネジメントシステム
箇条5 リーダーシップ
5.1 リーダーシップ及びコミットメント
5.2 方針
5.3 組織の役割,責任及び権限
箇条6 計画
6.1 リスク及び機会への取組み
6.2. XXX目的及びそれを達成するための計画策定
箇条7 支援
7.1 資源
7.2 力量
7.3 認識
7.4 コミュニケーション
7.5 文書化した情報
箇条8 運用
8.1 運用の計画及び管理
箇条9 パフォーマンス評価
9.1 監視,測定,分析及び評価
9.2 内部監査
9.3 マネジメントレビュー
箇条10 改善
10.1 不適合及び是正処置
10.2 継続的改善
(参考)
○ISO共通テキスト《附属書SL》 解説と活用
ISOマネジメントシステム構築組織のパフォーマンス向上
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0100/index/?syohin_cd=330657
概観すると分かるが、すでに構築しているマネジメントシステムをカバーしている。従って、共通に実施している管理項目だけを抜き出して、「基本マネジメントシステム」とする。これに付加する形で個別の運用管理の考え方を、「個別業務手順書」として「製品・サービス」ごとに、付帯情報としての「法令遵守」を特記事項として蔑視にすればよい。
すでにあるマネジメントシステムの最小公倍数的なシステムを構築しないこと。最大公約数を整理して、自社の実態に合った形にすること。
ISOがあって業務があるわけではない。
2024/09/20