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晴耕雨読:「学習する組織」(構造を物語として理解する:第6章 「自然の型 出来事を制御する型を特定する)

■はじめに

 ピーター・センゲの「学習する組織」(邦題)は原書名を表していないし、誤解を招きかねない訳である。この本は、私の見る限り、企業がその競争力を維持するためのヒントを示した本である。ノウハウ本でもなければ技術本でもない。
 散文的に話題がちりばめられた本書は難解であり、その取り扱いには悩むだろう。

 前回までのおさらいをしておこう。
 第1章で5つのディシプリンがキーであることが示された。
 そのため、第8章から、下記のディシプリンについて読み解いた。
(1)「志の育成」
・自己マスタリー
・共有ビジョン
(2)「内省的な会話の展開」
・メンタルモデル
・チーム学習
 ここで明らかになったことは、経営とは命令通りに人を動かすことではなく、個々人の尊厳の上に成り立つ組織で共有される理想像が必要であり、それを元に組織でのイノベーションを生み出す為には前提に囚われないダイアログによる発見が必要であると言うことである。

 では、ひるがえってこうしたことに反する「学習しない組織」とはどんな組織であろうか?この答えが第2章と第3章に記載されていることを確認し、その中核となる考え方に「構造の理解」があることが明示されている。

 この「構造の理解」こそが「システム思考」の要諦になる。
 それについて「第Ⅱ部 システム思考-「学習する組織」の要になる、
 では、第4章から以降、何が書かれているのだろう。

簡単に言えば
第4章・・・社会システムの「構造」は、複雑であり、間違った理解は問題解決につながらないことを示す。
第5章・・・正しく理解するためには「共通言語」が必要であり、それはどのようなものであるかを示す。
第6章・・・そして、共通言語である「ループとフィードバック」が実際の社会システムでどのように表現されるのかのテンプレートを示し、理解を促す。
第7章・・・こうしたテンプレートの実際の活用事例を示すことにより、システム思考の重要性、学習すると言うことの本質を示す試みをしている。

こうしたことを受けて、第Ⅲ部の最初のディシプリンにつながる。

■第6章 「自然の型 出来事を制御する型を特定する
「第4章 システム思考の法則」では、
 ・線形の因果関係の連なりよりも、相互関係に目を向ける
 ・スナップショットよりも、変化のプロセスに目を向ける
ことが、システム思考の品質であることを明らかにし、
 「第5章 意識の変容」では
 ・(ますます悪化させてしまう)自己強化型フィードバック
 ・(施策を無効化させる)バランス型フィードバック
 ・(レバレッジ発見を難しくする)遅れ
について説明がなされた。
 第6章では、こうした要素だけを見ることだけでは世界を理解するには十分ではないことを前提に、いくつかのパターンを示す。

この章では「成長の限界」(注:ローマクラブではない)と「問題のすり替わり」について事例を交えて解説されている。それぞれの意味については本文をよんでもらうほうが良いだろう。

ここでは、「付録② システム原型」で登場するパターンから「解説」部分を引用する。

(1)遅れを伴うバランス型プロセス
 ※単一の「バランス型ループ」で説明できるパターン

 目標に向かっている人、集団、または組織が、遅れのあるフィードバックに対応して、自身の行動を調整する。遅れを意識していないと、必要以上の是正処置をとることになるか、全く進展が見られないため諦めてしまうことになる。

(2)成長の限界
 ※自己強化型ループとこれを押しとどめるバランス型ループの組合わせ

 あるプロセスが自らを糧として加速的な成長や拡大を生み出す。その後、成長が減速をはじめ、ついには止ってしまう。時として成長が逆転して、加速的な崩壊がはじまることさえある。
 成長の段階は、自己強化型のフィードバック・ループによって引き起こされる。その減速は「制約」として働き始めるバランス型プロセスによって起こる。この制約は、資源の制約かもしれないし、成長に対する外部または内部の反応かもしれない。加速的な崩壊は自己強化型プロセスが逆に作用しどんどん縮小していくことで起きる。

(3)問題のすり替わり
 ※対処療法的な解決策と、時間の遅れが伴う根本的な解決策の二つの自己強化型ループ間で起きる副作用を伴うバランス型ループが問題の解決を困難にするパターン

 問題を是正するために表面的には即効性があって良い結果をもたらすように見える短期的な「解決策」が用いられる。この短期的な「解決策」が多く用いられれば用いられるほど、より根本的な長期的解決策がますます手つかずになる。そのうちに、根本的な解決策の遂行能力が衰えたり、機能しなくなったりして、対処療法的な解決策にますます頼るようになる。

(4)特別な原型 - 介入者への問題のすり替わり
 ※(3)の別の側面

 問題のすり変わりの構造が頻繁に見られ、その害が大きいため、特筆に値する原型がある。それは、外部の「介入者」が問題解決を援助する場合だ。介入者は、明らかな問題症状を改善しようと試み、それが非常にうまく行くので、システム内部の人たちは自分たちで問題に対処する方法を決して学ばない。

(5)目標のなし崩し
 ※二つの自己強化型ループ間での時間差がもたらす問題

 短期的な解決策として、長期的な根本目標を下げさせる問題のすり替わり構造の一種。
 「危機が過ぎるまでの間だけ、目標達成基準を少しぐらい下げても大丈夫だろう」という考え方が出てきたら要注意。

(6)エスカレート
 ※異なる主体が行なう自己強化型ループが予期せぬ未来を形作る

 二人または二つの組織がそれぞれ、自身の繁栄は、相手に対して相対的にどれくらい優位かによって左右されるものだと考えている。一方が優位になると、もう一方は脅かされ、そのため、再び自分の優位を確立しようとより攻撃的に行動することにより、また元の一方が脅かされ、その攻撃の行動量を高め、それがまた繰り返される。それぞれが自分自身の攻撃的な行動は、相手の攻撃性に対する防御反応だと考えている。だが、それぞれが「防御として」行動することが、それぞれが望むレベルを遙かに超えるところまでエスカレートさせる結果につながる。

 ※まさしく今世界でおきていることである。

(7)強者はますます強く
 ※二者間での自己強化型が起こす副作用

 限られた支援や資源を巡って二者または二つの活動が競う(奪い合う)。一方が成功すればするほど、入手できる支援が多くなり。もう一方への支援を欠乏させる。

(8)共有地の悲劇
 ※二つの自己強化型ループはそれぞれ共通の制約条件に基づくバランス型ループが内在化されており、そのループの遅れが資源の枯渇に気がつくのを遅らせるパターン

 個人が、多くの人が共有する限りある資源を、個人のニーズにのみ基づいて利用する。最初は、それを利用することで利益を得るが、次第に、得られる利益が少なくなり、そのために努力を強化する。結局資源が激減するか、損なわれるか、完全に枯渇するかのいずれかになる。

(9)うまくいかない解決策
 ※問題を解決させるバランス型ループが、解決策がもたらす遅れに伴う自己強化型ループを引き起こすパターン

 短期的には効果をあげる解決策が、長期的には予期しない結果をもたらし、その結果によって、同じ解決策をさらに用いる必要が出てくる。

(10)成長と投資不足
 ※ちょっと複雑。いままでの類型の合成。

 成長は限界に近づくが、会社または個人が「生産能力」の増強に投資すれば、その限界を無くすか、先送りすることができる。だが、その投資は、成長の減速を未然に防ぐことに十分な積極性と迅速性を伴わなければならない。さもないと失敗に終わるだろう。往々にして、投資を行なわないことを正当化するために、主要な目標や業績達成基準が引き下げられる。こうなると、目標の引き下げは期待の低下につながる「自己達成予言」となる。この期待の低下は、投資不足が引き起こす業績低迷によって生み出されるのである。

以上が付録に記載される類型である。なぜこのような「原型」が重要なのかは下記の記載が参考になるだろう。

「自己強化型およびバランス型のフィードバックや遅れが、システム思考の名詞や動詞のようなものだとすれば、システム原型は、基本的な文や、何度も繰り返し語られる単純な物語のようなものだ。」

 どんな物語かは、格言系のそれぞれ「ビジネスでの事例」に例が出ているので参考にして欲しい。

 「学習する組織にとって、マネージャーたちがシステム原型の観点から考えるようになって初めて、システム思考は活発で日常的な動作主となり、いかに私たちが自分たちの現実を生み出すかを絶えず明らかにするようになる」

■次回について
 章の最後に以下のように記載されている。
 「次の章では、「成長の限界」と「問題のすり替わり」の原型が役に立ったケースについて検証する」
 これを確認してゆこう。

<閑話休題>

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