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晴耕雨読:「学習する組織」(前提を疑う:第9章 メンタル・モデル)

■はじめに
 ピーター・センゲの「学習する組織」(邦題)は原書名を表していないし、誤解を招きかねない訳である。この本は、私の見る限り、企業がその競争力を維持するためのヒントを示した本である。ノウハウ本でもなければ技術本でもない。
 散文的に話題がちりばめられた本書は難解であり、その取り扱いには悩むだろう。
 それでも、この本は経営革新には以下の事項が必要だと断じている。

(1)「志の育成」
・自己マスタリー
・共有ビジョン

(2)「内省的な会話の展開」
・メンタルモデル
・チーム学習

(3)「複雑性の理解」
・システム思考

 今回は、その中の「共有ビジョン」について確認してゆこう。
 第10章になる。

■序文(P40)での説明

メンタル・モデルは
「メンタル・モデルとは、私たちがどのように世界を理解し、どのように行動するかに影響を及ぼす、深くしみこんだ前提、一般概念であり、あるいは想像やイメージである。」
と記述されている。

とはいえ、これがシステム思考とどう関わりがあるのかを理解することは難しい。
重要な概念として、「学習のダブルループ」がある。

一般的にプロセスはPDCAで管理される。例えば、

(1)課題解決のための施策を決定する
(2)施策にもとづいて実行する
(3)実行した結果について情報を収集する
(4)得られた情報を分析して施策の改善案を提示する
 そして(1)に戻る。
 これを繰り返すのだが、これはシングルループと呼ばれ改善しようが高度化しようがシングルループである。
 PDCAを繰り返しても改善しない理由の一つに、「メンタル・モデル」に気がつかないので別の改善案にたどり着けないと言うことがある。

 例えば、現在賃金アップが各企業がこぞって行なっているが、「ヒトは高い賃金の会社に集まる」というメンタルモデルに皆が当たり前の様に受け入れているが、「3年内離職率」はマスデータとしては変わらない事実がある。すなわち、「賃金を上げても離職の状況は変わらない」ということがあり得る。

 メンタルモデルとして「社員が何を望むかは我々は知っている」があり「社員が望むことは社員にしか分からない」というメンタルモデルに移行できなければ、施策の試行錯誤を結果も分からないまま繰り返すことになる。

 「学習のダブルループ」とは、このメンタルモデルについて検証を行ない施策を変質させることである。そのためには、まずメンタルモデルを明らかにすることが必要である。

■本書でのメンタルモデルの扱いの注意

この本では、下記のことは書かれていない。
・メンタルモデルの一般類型
・正しいメンタルモデルの条件

メンタルモデルにまつわるいろいろな話は出てくるが、ではどうすれば良いのかは自分たちで考えることを求める。単に重要なポイントなので重視することを示唆している。ノウハウ的な事を期待しているのであれば諦めて欲しい。

それでも、示唆に富んだこの章は目を通してもらいたい。
いくつかのポイントを引用する。役に立ってくれるとうれしい。

■見えざるメンタルモデルの功罪

本書では「世界はこういうものだという頭の中のイメージを浮かび上がらせ、検証し、改善」することを求める。

「ひとは(つねに)自分の信奉する理論(口で言うこと)通りに行動するわけではなく、自分が使用する理論(メンタル・モデル)通りに行動する」

重要なことは「メンタル・モデルが現に作用している-私たちの行動を決定している-ことだ」と言うことを理解することである。

その上で、「メンタル・モデルが問題になるのは、それが暗黙の存在になるとき、つまり意識のレベルより深いところに存在するときなのだ。」と指摘する。これにより、学習のダブループが形成されないことになる。

「私たちが自分のメンタル・モデルに気づかないままでいるから、そのモデルは検証されないままになる。検証されないからモデルは変化しないままになる。世界が変化するにつれて、メンタル・モデルと現実の乖離は大きくなり、ますます逆効果の行動を取ることになる。」

これがメンタル・モデルに目を向けないことの弊害になる。

■メンタル・モデルの検証

メンタル・モデルにどう対処するのかと言えば、「振り返りのスキルと探求のスキル
を伸ばすことを求めている。とはいえ、それは困難であることを本書は示唆する。

そもそも、一人一人の行動原理は異なっており、したがって、組織としての統一のメンタルスキルを形成すること自体が正解なのかも分からない。お互いのメンタル・モデルは何であるかを明らかにし、相互に尊重するところからはじまるかもしれない。

それを示唆する部分を引用してみよう。

「どんな組織でも、意思決定の中枢にある人たちが共有しているメンタルモデルこそが最も重要だからだ。そうしたモデルは、もし検証されなければ、組織の行動範囲を、慣れ親しんだ、安住を感じる範囲に限定してしまう。」

「マネージャー自身も振り返りのスキルと対面で学ぶスキルを伸ばさなければならないことだ。でなければ、実際の意思決定や行動は何も変わらないだろう。」

「振り返りや対人関係を学ぶスキルがなければ、学習は必然的に受け身になり、生成的(根源から創造すること)にはならないのだ」

■組織改革

すでに「自己マスタリー」「共有ビジョン」で明らかにしたように「真実に目を向け」「批判的であることを恐れず」「オープンに」議論できる」組織作りが求められる。

建て前と本音が乖離あることに目を背けてはならない。
システム思考の原理の一つである。

そうしないと安易な一般化に飛びつくことになりかねない。

「直接観察したものと、その観察から推測した一般化したものとを区別する訓練を受けていない」ため、怠け者である私たちの脳は「自分が抽象化によって飛躍していることに気がつかず」「私たちは探求の必要性にさえ気がつかない」ことになる。

「この一般化の根拠になっている「データ」は何だろう?」という問いかけができる組織を構築することが求められる。

「全員が自分の考えを明らかにし、公の検証にさらす」ことができる組織化を振り返る必要がある。

■システム思考の原理の繋がり

システム思考の中での原理の繋がりが記載されている。

「すべてのメンタル・モデルをその時の状況に照らし熟考し検証しなければならない。そのためには、組織全体が「真実に忠実であること」が必要であり、それは自己マスタリーから自然に生まれる。」

「「徹底的に話し合えば、何をすべきか分かる」という確信は、チーム学習のディシプリンの核心、「ダイアログ」によって育まれる「合致」(ベクトル合わせ・協力体制)の土台となる。」

これを受けて、次は「第11章 チーム学習」を読み解こう。

<続く>

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