
ISO9001と経営:システムを変えなければ文化は変わらない(小林製薬の社長交代のその場しのぎ感)
「今まであなたは当事者だったのではないのか?」にどう応えるのか
応えられないのであれば組織文化は変らない。
■文化という言葉
ISO9001:2015という規格で「文化」という言葉が出てくるのは、最初の「4.1 組織及びその状況の理解」であり、下記の文脈で語られる。
組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える,外部及び内部の課題を明確にしなければならない。
注記3 内部の状況の理解は,組織の価値観,文化,知識及びパフォーマンスに関する課題を検討することによって容易になり得る。
この規格要求事項では、文化にも着目することを求めている。
そして、この文化という側面が組織能力に懸念が生じるのであれば変えることを求めている。
それは下記の文脈で理解されるべきであろう。
10 改善
10.1 一般
組織は,顧客要求事項を満たし,顧客満足を向上させるために,改善の機会を明確にし,選択しなければならず,また,必要な取組みを実施しなければならない。
注記 改善には,例えば,修正,是正処置,継続的改善,現状を打破する変更,革新及び組織再編が含まれ得る。
上記の組織改編は組織風土や組織文化にも焦点を当てることを除外しないことを求めていると理解すべきであろう。
■不祥事の解決策
しかし、ISO9001:2015という規格で求めている改善の対象は「システム」である。
そのシステムは、人間に焦点を当てたものも人間以外の何かに焦点を当てたものの相互のネットワークであり、組織風土・組織文化という象徴的なモノではない。
にもかかわらず、企業が不祥事を起こすとそこに安易に逃げ込むことは納得できない。
それでも、そのわかりやすさから「風土・文化」を口に出すことが多い。
少し長いが、昨年問題を引き起こした小林製薬の再発防止策を飲用する・
○ 再発防止策の策定に関するお知らせ 2024 年9月17日 各 位
小林製薬株式会社(本社:大阪市、社長:山根聡)は、当社の紅麹関連製品にて一部の紅麹原料に当社の想定していない成分が含まれている可能性が判明した件について(以下「本件事案」といいます。)、2024年7月23日付「事実検証委員会の調査報告を踏まえた取締役会の総括について」に記載のとおり、事実検証委員会より、同事案における一連の当社対応に関する調査報告書(以下「委員会報告書」といいます。)を受領いたしました。
当社は、委員会報告書における指摘事項を踏まえ、本日付で再発防止策について決議いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします。 今後は全社一丸となり、委員会報告書においても指摘を受けた当社の内部統制システムと品質管理体制に関する課題を見つめ直し、製品の品質・安全に関する全役職員の意識を改革してまいります。また、それとともに、本日公表いたします再発防止策を速やかに、かつ、徹底して実行していくことで、当社製品を安心してご使用いただけるよう、皆様からの信頼回復に真摯に努めてまいります。
https://www.kobayashi.co.jp/info/files/pdf/20240917.pdf
ホームページを確認すると下記の記載が確認できる。
【再発防止策の概要】
当社は、委員会報告書を通じて事実検証委員会から提言頂いた内容を踏まえ、
①品質・安全に関する意識改革と体制強化、
②コーポレート・ガバナンスの抜本的改革、
③全員が一丸となって創り直す新小林製薬、を3本の柱とする具体的な再発防止策を策定いたしましたので、今後これを実施してまいります。
策定した具体的な再発防止策の詳細は、別紙「再発防止策」に記載のとおりですが、その概要は以下のとおりです。
(1) 品質・安全に関する意識改革と体制強化
「品質・安全ファースト」を徹底して当社の役職員の品質・安全に関する意識改革を図ります。 また、品質保証体制とマネジメント体制を強化いたします。品質保証体制は、責任部署の明確化、品質管理体制の改善、専門部署の新設を行い、マネジメント体制は、工場のガバナンス体制の充実、関連ルールの整備、業務フローの見直し及び人事評価制度の刷新を行うことにより、強化を図ります。
(2) コーポレート・ガバナンスの抜本的改革
複数の観点からコーポレート・ガバナンスの抜本的な改革を図ります。具体的には、創業家依存経営からの脱却、機関設計の再検証、社外取締役を中心とする取締役会による監督強化、GOM(グループ執行審議会)の廃止、危機管理体制の整備、リスク・コンプライアンス体制の強化、対外的なコミュニケーション・情報発信の改善、リソースを踏まえた取捨選択を推進します。
(3) 全員が一丸となって創り直す
新小林製薬 当社が抱える同質性を排除し、多様性を確保する施策を実行することで、全役職員が力を合わせて一丸となり、小林製薬を創り直します。それにより、「新しい小林製薬」を創るのに欠かせない企業風土の変革を行います。
当社といたしましては、今後、再発防止策を確実かつ誠実に実行してまいる所存ですが、本件事案によって、お客様をはじめ、お取引先様、株主・投資家の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしたことを深く反省し、再発防止策とは別途、社会に対して一定の貢献を行うことで、その責任を果たしたいと考えております。 また、当社は、再発防止策で掲げた取組みを一過性のものとして終わらせてはいけないことを全役職員が肝に銘じ、折に触れて本日の思いに立ち戻り、全役職員の品質・安全にかかる意識改革に基づく新しい小林製薬の創造を、全社一丸となって進めてまいります。
以上
意識改革などを通し“企業風土の変革”をすると言っている。
しかし、これが期待できないという懸念が下記の記事に見て取れる。
○小林製薬の山根社長が退任へ
2025/01/21
小林製薬は21日、山根聡社長(64)が退任する人事案を3月の定時株主総会で提案すると発表した。後任には豊田賀一執行役員(60)が昇格する。紅こうじサプリメントによる健康被害を踏まえ、経営体制を刷新するとした。
https://nordot.app/1254326839638639561
なぜか。
問題を抱えた組織風土・組織文化の体現者が掌握したからと言って何かが変るわけではないことは、ふたたび不正や不祥事を起こす多くの事例が物語っているのではないか。「あなたは前の経営陣の一翼ではないか。その責任はどうなのだ」と言うことに応えられるとは思えない。
■組織風土・組織文化を変える唯一の手段
組織風土や組織文化は人が醸し出すと言う側面が強い。なので、一番簡単なのは、経営層をすべてクビにして外部から調達することである。旧体制の人々は百害あって一利無しと割り切るべきである。また、可能であれば、全員を対象とした配置換えである。ゼロから自分たちの組織風土を作らなければならない状況のすることである。
もっとも、こうしたことは業務プロセスを変えることはない。
組織文化や組織風土を変えるなら、組織の持つ機能不全の原因を取り除くことである。
その代表的な手法は「情報の不均衡の解消」である。
情報の不均衡は「君たちが知らない何かを私は知っている」という心理的優位性と権力の偏在、独断の意思決定を生み出す。従って、「手札をすべてテーブルに出す」というメカニズムを導入することである。
・財務データの公開
・経営会議の内容の開示
・人事評価の開示
といった施策が思いつく。
こうした情報を社員に隠すという文化を打破すれば、少なくとも自制の効かないガバナンスは防げる。
思い通りに世界を動かしたいという人間にトップを任せてはならない。
旧経営陣の昇格が有効でない理由の背景である。
2025/02/03