戦略人事:船を下りた人間に未練は無い(幻想のアルムナイ採用)
■気になる記事
○出戻り社員「アルムナイ採用」が増えた切実な事情
かつては"裏切り者扱い"も今や大歓迎だが…
2024/09/23
「当社では、人的資本経営を最重要課題として推進しています。現社員だけでなく、当社の教育訓練によって成長したアルムナイも、当社にとって重要な人的資本です。チャンスがあれば復帰して、当社の発展に貢献してほしいと門戸を開いています」(エネルギー)
「多くのアルムナイは、当社を離れていろんな経験を積み、一回り成長します。そういう優秀な人材が当社に復帰し、リーダーとして経営改革を主導してくれることを期待しています」(消費財)
機械メーカー・K社のIT部門でDXを推進するSさんは、深刻な人材不足に悩まされています。DXのスキルを持つ社員は、K社よりも高給を提示する他社にどんどん転職していく一方、採用のほうは、年収の100%の仲介手数料を転職エージェントに払ってもなかなか人を採れません。
Sさんは、DX人材を中途採用するうえで、給与が最大のネックになっていると考え、人事部に「全社的な賃金体系に関係なく、優秀なDX人材には思い切った高給を提示するようにしたい」と訴えました。
しかし、人事部からは「IT部門だけを特別扱いするわけにはいかない。他部門も人手不足だが、何とか対処している。IT部門は努力不足ではないか。人事部では、アルムナイ採用やリファーラル採用(報奨金付き縁故採用)など新たな採用方法を取り入れて改善に努めている」とゼロ回答でした。
https://toyokeizai.net/articles/-/828592
アルムナイ採用に関する話題は、ここ何年か耳にしたことがある。その報道は成功事例を中心にして好意的な取り組みとして製作されている。もちろんこれを否定するつもりはないが釈然としない面もある。
こうしたアルムナイ採用の前提には活発な人財流動が必要である。たかだか数人程度の集まりでは意味は無く、100人単位での集合体でなければ意味は無いだろう。考えてもみて欲しい。自ら辞める人々は、何らかの理由で他社に移籍しているのであろうから、その理由などが変わらないのであれば再び戻る必要は無い。
かつて退職した企業では「同期会」のようなことをしていたが出戻りがいたとは聞いていない。
中途採用を十分な量の確保できるとは思えない。
■送り手側の事情/放逐される人の事情
自ら会社を去るヒトに対し、会社側はどのような環境をいだいているのだろう。辞めたいと申し出た人に対し応援をするという気持ちを持っているのだろうか。
「船を下りた人間に興味は無い」
かつてある企業の取締役がつぶやいた言葉である。
企業にとって人材は競争力の源泉であり、能力を発揮してくれる人には仕事のチャンスを与え報酬で報いていた。一方で社員に求める水準も高く、離職率も高かった。もっとも応募してくる人には事欠かなかったので危機感は薄い。
「辞めた人にも戻るチャンスを挙げられるようにコンタクトはとり続けたらどうなんですか」
との問いに対する返答である。10年以上前の話である。
そうした人の気持ちや組織文化がそう変わるとも思えず「アルムナイ採用」には懐疑的である。
人材の流動化を促進しそうな話題としてリストラがある。
世界に目を向けると景気の変動は企業が対応できる間もなく悪化し、業績不振に見舞われて簡単にリストラに走る。
そうした記事には事欠かない。
EV不況はその典型であろうか。
○米EV不振が招くリストラ 日産希望退職、GM1000人減
2024年8月19日
ゼネラル・モーターズ(GM)は全世界で1000人以上の人員を削減する。米国拠点のソフトウエア部門の従業員などが対象となる。欧州ステランティスも米工場で約2400人を削減するほか、日本勢も日産自動車が北米で希望退職者の募集を始めた。中国との価格競争に伴う電気自動車(EV)事業の不振や景気減速懸念を受け、米国市場で自動車各社の構造改革が本格化してきた。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN19AXO0Z10C24A8000000/
これは自動車業界だけではないだろう。
○サムスン電子、数千人規模で人員削減へ-世界的なレイオフの一環
2024年10月2日
韓国サムスン電子は東南アジアやオーストラリア、ニュージーランドで従業員を削減する。世界の人員数を数千人規模で削減する計画の一環。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
今回のレイオフでこれらの市場では従業員の約10%が影響を受ける可能性があるが、各子会社で削減数は異なり得ると、関係者の1人は匿名を条件に話した。他の国外子会社でも雇用削減が計画されており、一部の市場では10%に達する可能性もあるという。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-10-01/SKOOFCT0AFB400
リストラと云うことであれば国内企業でも報道されている。
○リコー、国内外の2000人削減 事務機縮小受けDXに集中
2024年9月12日
リコーは12日、2025年3月までに国内外で2000人の人員を削減すると発表した。連結従業員の3%に相当する。オフィス向け事務機の営業部門や保守メンテナンス、管理など幅広い部門が対象となる。事務機市場がペーパーレス化で縮小するのをにらみ、オフィス業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援に経営資源を集中する。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC06ACB0W4A900C2000000/
こうした企業から「不要」とされた人間が外の経験を経て“優秀な人材”になるとは思えない。仮に“優秀な人材”になっていたら、元の会社など「馬鹿にするな」と言って戻らないだろう。人の感情を侮らないことだ。
■アルムナイ採用を幻想にしないための方策
以前から提唱しているが、こうした流動化した人材を活用するためには
①未就業期間での収入補償
いわゆるベーシックインカム的な収入補償をする。
今のような失業保険では使いにくい。
②専門教育期間の設立
基礎知識が無ければ対応できない職種が増えている。
本人の努力に頼るのではなく、企業側にも参画させた教育システムを整備する。
ぬるい大学ではなく海外の大学並みの厳しさが必要である。
③無料のマッチングサイト
ビズリーリのようなマッチングサイトを活性化させる。
システムを作る事は簡単であろうし、運用面についてはある意味k治外法権でよい。
さて、どうだろう。
政治家の皆さん真面目に考えてくれないかな。
2024/10/04
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