人事の問題を考える(学生に即戦力を求めてはならない)
■デジタル人材
企業の競争力を高めるために高度な人材が必要だという経営からのプレッシャーに人事部はどう対応しているのだろうか。
デジタル人材については、当然各企業がその確保に動いている。
そこでのデジタル人材は企業により異なるが、概ね以下のような説明がされる。
https://www.mri.co.jp/service/digital-human-resource-training.html#:~:text=%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E4%BA%BA%E6%9D%90%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81DX,%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%80%8D%E3%81%AE%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
デジタル人材とは、DXの推進を担う多様な人材の総称です。エンジニアやデータサイエンティストだけがデジタル人材ではありません。
DX推進に必要なスキルには、データサイエンスやエンジニアリングといった技術系スキルと、ビジネス系の「ビジネス・サービス設計」「組織・プロジェクト管理」のスキルがあります。
また、デジタル人材の役割も一つではありません。役割によって、求められるスキルの濃淡・内訳が異なります。
例えば、プロデューサーは組織・プロジェクトマネジメント領域を主に担い、自身で事業の業務設計を行ったり、プログラムを書いて実装したりするといった、ビジネスやエンジニアリングの専門的な役割は想定されません。しかしチームとしてDXを円滑に推進するには、プロデューサーには注力するべき事業や技術領域を発掘し、担当者から上がってくる提案を判断するためのスキルが求められます。すなわち、ビジネス・サービス設計、データサイエンス・エンジニアリングの領域についても、「事業理解」や「技術動向把握」レベルのスキルが最低限必要となります。
(以上 引用)
従って、ITに関する専門技能、ビジネスに関する広範な知識、広い世界観が求められる。
そんな都合の良い人材は少なく、ましてや一般の大卒にいるわけもない。もしいたら、さっさと起業しているだろう。
■リベラルアーツと学習の機会
かつてグローバル人材の要件を経営者インタビューから分析していて得た答えの一つは「リベラルアーツ」特に「自分の国の文化に対する理解」だった。それは「英語力」や「専門技術」ではなかった。
私が所属していた「社会工学科」は、社会問題を工学的アプローチで解決するというコンセプトだった。残念ながら私は凡庸だったので十分な理解はできなかったが、それでも、最初から答えの無い問題に向き合うと言うことに抵抗はなかった。
先般、こうした「答えの無い問題に向き合う」ということで意見交換したときに、そうした考え方の教育をしていないと言うことと「リベラルアーツ」に触れる機会が少ないという意見があった。
学習をどこで行なうのかと言うことも課題になった。いろいろな意見もあるが、やはり大学などの学生時代にもっと多様な文化に接するべきだろうと言うことに賛同する人も多かった。
しかし、現在の大学生は入学したときから就職のことを考えざるを得ない。
自分探しをしたいと思っても、4年後、しかも春に卒業が義務づけられていては、まともに旅にも出られない。人間性が不十分な状態で社会に出ても即戦力にはならない。
大学も企業も考え方を変えなければならない。
■不足するIT人材
では、こうしたデジタル人材が市場から調達できるかというとそんなに簡単ではない。
○企業の人手不足、情報サービス業が64.6%でトップ - IT人材不足が浮き彫りに
2022/05/26
帝国データバンクは5月26日、今年4月に実施した「人手不足に対する企業の動向調査」の結果を発表した。有効回答企業数は 1万 1,267 社。
同調査によると、正社員の人手不足割合は45.9%で、前年同月から8.7ポイントの大幅増加となっている。特に「情報サービス業」は64.6%が「人手不足」と回答しており、IT人材の不足感が目立っている。
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20220526-2352125/
こうした傾向は今後も続くだろう。
■中途採用や業務委託の傾向
企業の採用戦略も変わらざるを得ない。
○大和証Gが中途社員を大量採用へ、今年度200人目標-中田社長
2022年5月26日
中田氏は中途入社の人材について「いい化学反応を期待している。足りないピースの補完としての中途採用ではなく、今後は新卒と同じように安定的に採用していく」と説明。中途採用に対する認識を根本的に転換し、人材多様化の柱にしたい考えを示した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-05-25/-200-l3lpqbkq
中途採用を単なる補充ではなく採用戦略の中核にするのであれば、新卒の位置づけも変わるかもしれない。一時期話題になった通年採用も現実味を帯びてくる。
○就活の脱「横並び」合意 経団連・大学、通年採用拡大
2019/4/22
今年の人事に係わる話題の一つとして「早期退職者」という話題や「定年の廃止もしくは延長」の話などがある。「早期退職者」の背景としては、結局のところ「昨日までの仕事はなくなった。新しい仕事に就ける人を探さなければならない」ので、「使えない人は辞めてもらって、使える人を補充する」ということがある。ぶっちゃけ、「再教育」をするなら、「色に染まっていない人の方が良い」という発想でいるのだろう。
しかし、従来の「入社してからのありきたりの教育」ではもう間に合わなくなっているので、上記の記事などを見ると、
「経団連と大学の報告のポイント」として
◇採用形態を多様化
・新卒一括採用に加え、(能力重視の通年の)ジョブ型採用など、伏線的で多様な採用形態に移行すべき
・ギャップイヤー(猶予期間)の導入を検討
◇グローバル化に対応した教育
・実質3年間の大学教育は不十分。卒業要件の厳格化を徹底
・採用での成績評価は卒論など学位取得にいたる全体を評価
・データ分析や語学、供用の取得を
◇職業観を養う教育を
・専門知識を活かす長期インターンの実施。ワンデーインターンと教育的インターンは区別
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44016780R20C19A4MM0000/
こうした、社内のリソースの強化とともに、不足するリソースをアウトソースするという流れも無視できない。
○約6割が「今後は新卒採用より業務委託の活用が活発になる」と予想/みらいワークス調査
2022/05/12
勤務先でのプロ人材の業務委託の必要性が高まっていくかどうかの見解を尋ねると、「非常にそう思う」が42.2%、「ややそう思う」が41.2%であった。(※合計83.3%)
前問で「非常にそう思う」「ややそう思う」を選択した回答者を対象に「今後プロ人材の業務委託が必要になってくると思う理由を教えてください」と尋ねると、「プロフェッショナル人材の育成難易度が上がっているため」が52.1%、「新規事業の必要性があるため」が37.5%、「内部での事業・経営変革が難しいため」が37.2%という結果に。
https://saleszine.jp/news/detail/3469
■人事部門が配慮すべきこと
かつて、簡単に大卒が調達できた時代は、同時に高度成長の時代でもあり、人工(にんく)で数えるものであり、個性は関係なかった。また、採用哲学も、単なる補充以上の意味はなかった。
おそらく現代ではそんな考え方で採用戦略を考えている企業は少ないと思うのだが幻想だろうか。もっとも、実際の人事担当者はそんなことを考えていないかもしれない。吉野家の「外国人への就職説明会への排除」は、一体彼らの頭の中はどうなっているのだろうと考え得させられる。
そもそも単純に「優秀なヒト」という安易な思考を持ってはならない。そもそも、貴方はヒトの優秀さを評価できるのかを自問すれば、そんな採用活動は無理である。
調達ルートも
・4月の一括採用からの脱皮
・採用以外にも委託という手段があることの認識
が必要だろう。
そして、仮に大学などから未経験の人材を調達したら、戦力になるための育成戦略も必要である。
これも持っていないのであれば人事部が必要な理由が分からない。
<閑話休題>