ISO9001と経営:利害関係者を置き去りにするシステム設計(マイナンバーカードと「8.3.2 設計・開発の計画」を考える)
ISO9001と経営:利害関係者を置き去りにするシステム設計(マイナンバーカードと「8.3.2 設計・開発の計画」を考える)
■マイナンバーカードの不手際
2023年8月。マイナンバーカードに関する報道が少なくなってきているが、これはもうみんな飽きてきたのかもしれない。相変わらず、スケジュールありきで国民の声など聞かない岸田政権が、何を言ってもてこでも動かないことに気がついたのかもしれない。
とはいえ、一定のシステム開発の経験があると見逃せない記事もある。
順番に、どんな所が気になるか記載する。
○マイナ連携ミス、2336件 知的障害の情報閲覧可能に
2023/07/12
担当職員がデータ入力をした際、誤った位置にコピー&ペースト(貼り付け)する「行ずれ」が起きたのが原因としている。
県によると、作業は主に1人の職員が担い、ひも付け作業などで業務が集中的に増えていた。再発防止策として、手作業の工程を減らし、複数人で再確認する体制をつくる考え。
https://nordot.app/1051702193282499446
※オペレーションミスがあっても運用できる。バリディティチェックが入っていたのか分からない。オペレーションは常に間違うと言うことを忘れていないか?
○勘違いで保険証とひも付け マイナカード、宮城・名取
2023年08月02日
宮城県名取市は2日、市民1人のマイナンバーカードと健康保険証を誤ってひも付けるミスがあったと発表した。市民はひも付けを希望していなかったが、市の委託業者のスタッフが勘違いしたため。市は厚労省に依頼して解除手続きを進めているが、解除まで約1カ月かかる見通し。
https://www.47news.jp/9670951.html
※これも運用面での問題。入力プロセスが設計されていない。そもそも、データベースシステムで求められる基本機能「追加」「削除」「修正」が設計に入っていなかったのか。
○「マイナンバー総点検」がさらに自治体を苦しめる 現場の職員の本音は… 責任転嫁する政府に集まる批判
2023年7月14日
マイナンバー制度のトラブルが相次いでいることを受け、政府はデータの総点検を進め、11月にも完了させる考えだ。トラブルの多くは政府が制度の普及を急いだあまり、実務を担う自治体の対応が追いつかなかったことにある。点検作業で負担がさらに増える自治体の職員からは「国は現場の人員体制などの実情が分かっていない」と、反発の声が上がっている。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/262983
※点検作業を人海戦術で行なうという暴挙
■設計開発のプロセスの欠落を疑う
ISO9001:2015の規格要求事項には下記がある。
8.3.2 設計・開発の計画
設計・開発の段階及び管理を決定するに当たって,組織は,次の事項を考慮しなければならない。
a) 設計・開発活動の性質,期間及び複雑さ
b) 要求されるプロセス段階。これには適用される設計・開発のレビューを含む。
c) 要求される,設計・開発の検証及び妥当性確認活動
d) 設計・開発プロセスに関する責任及び権限
e) 製品及びサービスの設計・開発のための内部資源及び外部資源の必要性
f) 設計・開発プロセスに関与する人々の間のインタフェースの管理の必要性
g) 設計・開発プロセスへの顧客及びユーザの参画の必要性
h) 以降の製品及びサービスの提供に関する要求事項
i) 顧客及びその他の密接に関連する利害関係者によって期待される,設計・開発プロセスの管理レベル
j) 設計・開発の要求事項を満たしていることを実証するために必要な文書化した情報
(ここまで)
残念ながら、これだけでは設計開発に求められる具体的な要件は定まらない。
しかし、重要なキーワードがちりばめられている。特に注目するのは
g) 設計・開発プロセスへの顧客及びユーザの参画の必要性
だろう。
「顧客及びユーザ」には、当然最終的にサービスの利用者も含まれるが、運用担当者も含まれるべきである。なぜなら、運用部門が適性に作業できないシステムは、システムに復旧できないほどのバグを含めやすいことが経験的分かっているからである。
そのための設計技法として「DevOps」や「UML」といった考え方が発明されている。
もし、デジタル庁や富士通がこれを知らないとしたら、こうしたシステム開発を彼らにさせてはいけない。
<閑話休題>
(その他の記事)
○富士通、全自治体でマイナカード交付システムを再停止
2023年6月30日
富士通は29日、マイナンバーカードを使ってコンビニで証明書を交付するシステムを再び止めて点検すると発表した。再停止・再点検は、同社の子会社が運営する証明書交付システムを利用する全自治体が対象となる。
3月から複数の自治体で別人の証明書が誤って交付される不具合が相次ぎ、5月から約1カ月かけてシステムを点検した。6月17日に点検が完了したが、新たに福岡県宗像市で住民票の誤交付が発生した。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC29DGC0Z20C23A6000000/
○富士通、マイナでまた誤交付 システムを再停止
2023/06/30
新たな誤交付は福岡県宗像市の庁舎内に設置した端末で28日に発生。住民票の写しを申請した利用者に、直前に発行した別人の住民票が交付された。前回のコンビニでの誤交付とは違う原因という。2019年に発生した別の不具合を機に全国のシステムを修正していたが、宗像市には反映されなかった。
システムは子会社の富士通Japanが、広域団体を含め、123の自治体に提供している。一斉点検中は自治体の庁舎内、コンビニに設置した端末を通じたサービスを利用できなくなる。この間に証明書の交付を受けたい場合は、自治体の窓口で直接申請する必要がある。
https://nordot.app/1047284583994737648