IOS9001と経営:未然防止とトップマネジメント(大阪のアサヒビールの落下事故)
■不完全な情報
先日、下記の様な事故のニュースが流れた。
気になった箇所も引用する。
○エレベーター点検中に転落、死亡 大阪のアサヒビール工場
2023/4/8
倉庫内の大型エレベーターで異常を検知し、点検作業などをしていたとみられる。
松阪さんは一緒にいた他の作業員が別の現場に向かったため転落時は一人で作業しており、本人が119番した。倉庫2階に止まったエレベーターの上部で倒れており、消防が駆け付けた際には呼びかけに応じていたという。
https://www.sankei.com/article/20230408-Z3U55NMX4RI7VGDIPZJSUNP27I/
この事故については、これ以上の情報を得ることはできなかった。
アサヒビールや大阪府警吹田署のサイトを見ても、どこのエレベータ会社が点検していたかも分からない。
なので、可能性を考えて点検すべきマネジメントシステムを探る。
■対象となる法律
対象となるエレベータの特質により適用される法律が異なる。
(1)工場等に設置されるエレベーターで 積載荷重が0.25t以上のもの (一般公衆の用に供されるものは除く。) → 労働安全衛生法
(2)人又は荷物を運搬する昇降機 (用途、積載荷重にかかわらず) → 建築基準法
おそらくは今回適用されるのは「労働安全衛生法」であろう。
特に「安全帯」については、望ましいというレベルではなく必須と考えた方が良い。
安衛則518条
事業者は、高さが二メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行なう場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。
2事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000142646.pdf
とはいえ、都合の良いように適用される法律を限定するべきではない。
例えば建築基準法の下記の条文は、一般論として必須だと思う方が良い。
建築基準法 第12条3(報告、検査等)(抄)
昇降機設備の所有者は、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は昇降機等検査員資格者証の交付を受けている者に検査をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。
これを前提として、今回の事故のマネジメントシステム上の課題を見てゆこう。
■7.2 力量 (抜粋)
組織は,次の事項を行わなければならない。
b) 適切な教育,訓練又は経験に基づいて,それらの人々が力量を備えていることを確実にする。
可能性の一つとして「昇降機等検査員資格者」でないにしても、そもそも「高所作業」の知識・経験・技術がない要員を向かわせている可能性がある。
安全を軽視して、他のことを優先していないか、たとえば「顧客対応をしないと怒られる」のを避けるなど。
■7.1.3 インフラストラクチャ (抜粋)
組織は,プロセスの運用に必要なインフラストラクチャ,並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要なインフラストラクチャを明確にし,提供し,維持しなければならない。
注記インフラストラクチャには,次の事項が含まれ得る。
b) 設備。これにはハードウェア及びソフトウェアを含む。
仮に点検に向かうに当たって「安全帯」などの設備を準備していない(車両に常備していないなど)としたら、それは仕事を安全に行なう設備が用意されていないと云うことになる。ないままでの作業は危険である。
このぐらい大丈夫という慢心はなかっただろうか?
■4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス(抜粋)
4.4.2 組織は,必要な程度まで,次の事項を行わなければならない。
a) プロセスの運用を支援するための文書化した情報を維持する。
b) プロセスが計画どおりに実施されたと確信するための文書化した情報を保持する。
どこまで文書化するかは、その会社に任せられている。しかし、ルールを明文化していないと、いつかそのルールが有名無実化する。そのルール(例えば安全帯を着けること、高所作業を一人では行なってはいけないこと、未熟練者がそれをしてはならないことなど)を知らないとしたら、事故を防ぐことはできない。
■このぐらいいいだろうという慢心
懸念される事項に、「これぐらいのルール違反はいいだろう」という組織文化はないだろうか。納期が優先されるので「安全」は後回し、利益が優先されるので「手順の無視」が起きていないだろうか。
こうした組織文化は一朝一夕ではなくならない。
リーダーシップの欠如が根本にあるのであれば、それは経営者の問題である。
<閑話休題>