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永田町地下にて

地下鉄が永田町駅に到着した時、乗客の携帯電話がいっせいにけたたましく音を立てた。

なにかのアラートが発せられたのだ。地震か?

身体が強張った、のが、判る。

とっさに「この電車から降りたほうが良いのではないか?」と内側からのシグナルが聞こえる。

このまま電車に乗っていて、駅と駅の中間、都心の地下深くで電車が緊急停止したら?助かる見込みはないのではないか?

鞄にはいつも水分とおやつ(多少の軽食)を常備しているが、今日に限って「もう、あとは帰宅するだし。自宅の最寄り駅まで40分。まぁ大丈夫だろう」とたかをくくって、出先で消費してきてしまった。つまり非常食は持っていない。

どうする?
電車を降りるか?
心臓の音が聞こえる。
脈が少し速い。

幸いにしてここは永田町駅で、日本の中枢の地下なので、シェルター機能を有しているとされる場所。電車の中にいるよりも、地下鉄の駅のホームでアラートの正体を知ったほうが、生存率は高い気がする。

離脱行動をとるべきか否か、とっさに思い巡らす。

災害列島に暮らしているのに、本当に危機意識が鈍っているなぁと思う。

自分も、周りもだ。

乗客はみな、アタートのけたたましい携帯電話を見つめるも、微動だにしていない。誰も逃げ出さないから平気、と認知バイアスがかかっているのか、平常時と思い込みたがっているのか。身体からのSOSサインを、理性が制御してしまっているのかもしれない。

ここで駅のホームに降りるか、電車に乗り続けるかは、自らの判断。

「これでもし電車に乗り続けて、東京の地下深くで大地震に遭遇したら。」自分の生死を分けた判断ミスを笑うしかないな。そんなシニカルな考えも頭に浮かぶ。

だれかが「大雨警報だって」という。

あぁ、
大雨か。

それならば大丈夫だろう。

この状況は大雨災害には強い。助かった。

電車は何事もなかったかのようにドアを閉め、次の駅へ向けて滑り出していく。私は安堵しながら、教訓も得る。

危機管理に対応できるような瞬発力を磨かないと。
今回は訓練だったと思うようにしよう。
身体の声にしっかりと耳を傾けていかないと。


<了>

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