【MLB】2年前、なぜレンジャーズはコーリー・シーガーを選んだのか。
今季、7シーズンぶりにポストシーズン進出を果たし、リーグチャンピオンシップシリーズでは同ア・リーグ西地区のアストロズを下して12年ぶりのワールドシリーズ進出を決めたテキサス・レンジャーズ。
そのレンジャーズの躍進を支えている選手の一人は、コーリー・シーガーです。
シーガーは今季のレギュラーシーズンはケガで119試合の出場にとどまるも、打率.327、33HR、96打点、OPS1.013を記録。もし異次元の活躍をしていた大谷が同じリーグにいなければ、シーズンMVPの最有力候補となっていてもおかしくない成績でした。
また、ポストシーズンではチームメイトのアドリス・ガルシアの派手な活躍が目立ったものの、3HR、OPS1.127を記録しているだけでなく、12四球、12得点としっかり上位打線としてチャンスメイクをしています。四球数、得点数はポストシーズン出場選手のうちフィリーズのハーパーに次いで共に2位です。
さて、そんなシーガーが10年$3億2500万という契約でレンジャーズに入団したのは2022年。
前年の2021年、レンジャーズのショート(主にカイナーファレファを起用)はチーム全体でOPS.660と非常に攻撃力が弱く、補強ポイントのひとつでした。
ただし、レンジャーズは2021年に102敗をして地区最下位。同地区には長年地区優勝をしているアストロズがいるだけでなく、前年惜しくもポストシーズンを逃したマリナーズがいることもあり、まだまだ大型の補強をしてポストシーズンを狙うコンテンダーとなるには時期尚早という状況でした。
また、チームに力が備わっていないだけでなく、シーガーは攻撃に特化したショートストップであり、かつ怪我のリスクも高い選手でした。
さらに、2021年のオフには他にもトレバー・ストーリー、カルロス・コレア、ハビア・バエズ、翌2022年オフにはザンダー・ボガーツ、トレイ・ターナー、ダンズビー・スワンソンと"Make Difference"ができるポテンシャルを持った大型のショートがFAとなり、ショートの戦力補強をするには選択肢は多くあったはずです。
さて、2年前、なぜレンジャーズはシーガーを選択したのでしょうか。
ファストボールへの強さ
2021年、レンジャーズはチームとしてバッティングが弱く、チームOPSはMLB最下位の.670。その中でもファストボールに対応できず、力負けしていたように思います。
2021年の主な野手のフォーシームのRun Valueは以下の通り(打数順)。
カイナーファレファ:0
ガルシア:-6
ロウ:12
ソラック:-1
ギャロ:7
トレビーノ:7
ハイム:-7
このうち、カイナーファレファ、ギャロ、トレビーノは2022年シーズン前には他球団へ移籍。2022年に残るメンバーのうちロウを除くとフォーシームに対応できていない選手が残ることになります。
近年のMLBではピッチャーのスピードは増すばかりであり、特にポストシーズンで勝ち進むとなると、ハードボーラーへの対応は必須となります。
そんな中シーガーは、2021年シーズンのフォーシームのRun Valueは11を記録。ファストボールに関しては打率 .370、長打率 .633と速球系に非常に強さを見せていました。
同じタイミングでFAとなった他のショートの選手の数値(フォーシームのRun Value、ファストボール系の打率、長打率)と比べると以下の通り。シーガーが最も速球系のボールに対して対応ができています。
シーガー:Run Value +11 / 打率 .370 / 長打率 .633
コレア:Run Value +3 / 打率 .292/ 長打率 .497
バエズ:Run Value -5 / 打率 .267/ 長打率 .487
ストーリー:Run Value +5 / 打率 .270/ 長打率 .497
翌年FAとなったボガーツ、スワンソン、スワンソンはそれぞれプラスのRun Value(それぞれ+5, +6, +7)を記録していましたが、シーガーほどの数値ではありませんでした。
2021年のレンジャーズは打線全体として力で抑えられていたため、速球系をしっかりと打ち返すことのできるシーガーは、レンジャーズの打線に必要なピースだったと考えられます。
出塁能力の高さ
また、力で抑えられていたこともあり、2021年のレンジャーズは四球数はMLBで29位、出塁率は同最下位と出塁能力も低く、相手にプレッシャーをかけながら攻撃をすることができていませんでした。
一方で、シーガーは選球眼がよく出塁能力に長けており、2021年の出塁率.394。2021年、2022年にFAとなった他のショートの中でもっとも高い数値を記録していました。
シーガーの出塁能力は今季のポストシーズンでも発揮されており、特にオリオールズとの地区シリーズ第3戦では5四球を選び、チームの11得点に大きく貢献しました。
(選球眼とは関係ありませんが、満塁の場面で敬遠される場面も)
バッティングの精度の高さ
シーガー入団当初のレンジャースは全体的にバッティングが弱かったこともあり、ウィークポイントをを補強するというより、ムラがなく、どんな相手、どんなボールに対してもハイパフォーマンスを期待できるバッターが必要でした。
そんな中でもシーガーのバッティングの精度の高さ、穴の少なさは特異なものでした。以下は2021年の成績です。
対右投手OPS .912 / 対左投手OPS .919
対フライ系投手OPS .977 / 対ゴロ系投手OPS .938
Fast Ball系打率 .367/ Breaking Ball打率 .252/ Off Spead Ball打率 .276
特にレンジャーズはゴロ系投手に対してOPS .638とうまく打たされており、シーガーの加入は相手にとって別の攻め方をする必要があり、厄介な存在だったと思います。
また、速球系に比べると変化球(Breaking Ball, Off Spead Ball)がやや弱いのですが、例えばバエズはOff Spead Ballに対して、ストーリーはBreaking Ballに対してそれぞれ打率が.200前後であることと比べると、比較的穴がないと考えられます。実際、球種別でみるとスライダーやカッター、チェンジアップに対してはプラスのRun Valueを記録していました。
ヒットとなった打球もフィールド全体に打ち分けており、相手投手にとっては非常に打ち取りにくいバッターだったことがわかります。
ホームスタジアムとの相性
シーガーは、レンジャーズ入団前から本拠地・グローブライフフィールドで大暴れしていました。
2020年のポストシーズン、当時シーガーが加入していたドジャースはリーグチャンピオンシップシリーズではブレーブスと、ワールドシリーズではレイズとのカードとなり、ともに少数の観客を入れて中立地のグローブライフフィールドで行われました。
そこで、シーガーは12試合で打率.370, 7HR, 15打点、OPS 1.322を記録。リーグチャンピオンシップシリーズ、ワールドシリーズともに、MVPに輝いています。
本拠地、グローブライフフィールドとの相性はレンジャーズ入団後も変わらず、2022年、2023年のホームとアウェイでのOPSは以下の通り。
2022年 Home .900 / Away .645
2023年 Home 1.113 / Away .903
シーガーはドジャース時代、怪我やパンデミックの影響で試合出場の少なかった2018年、2020年を除くとホームとアウェイでの成績が大きく乖離しない選手でした。
レンジャーズ入団以降もグローブライフフィールドでの活躍を考えると、シーガーにとってはプレーしやすい環境だったのかもしれません。
以上がレンジャーズがシーガーを獲得した際のポイントではないかと考えています。
2021年オフにFAとなったショートのうち、2022、2023年の二年間でコレアは好不調の波があり、ストーリー、バエズは期待通りの活躍ができておらず、結果的にレンジャーズのシーガー獲得は成功したといえます。
シーガーとの契約当初、レンジャーズはまだまだポストシーズンを狙えるチームではなく、大型契約に懐疑的な面もありました。ただし、結果的にはその後、チームは2年間で2021年に比べて30勝も勝ち星を増やしワールドシリーズ進出まで勝ち進んでいます。
今の躍進の背景にはガルシアやヤング、ハイム、ロウ等の成長や、セミエン、イバルディといったFAで獲得した選手の活躍もありますが、その中でもコーリー・シーガーはまさしくチームに"Difference"をもたらす選手でした。チームとの適性を鑑みて、一気に獲得に動いたレンジャーズのスカウティングは素晴らしかったと考えています。
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