【モネ 睡蓮のとき】印象派って何?【鑑賞前にぜひ】
こんにちわ。
先日、上野の国立西洋美術館で開催中の「モネ 睡蓮のとき」を鑑賞してきました。
私は、大学時代は西洋美術史を専攻しており、山程の美術展と山程の専門書を読み漁っていたのですが、就職難により全く関係のない職に就いて十何年。子どもも生まれて足の遠のいていた美術展でしたが、子どもがある程度大きくなったので、もう一度行きたい!という気持ちが少しずつ芽生えてきました。
2024年の目標の一つに「美術展に行く」というのがあったのですが、年の前半は気の惹く美術展がなく(大江戸博物館も三菱一号館も改装中て…)気づけば年の暮れが差し迫るように…。慌てて行くと決めたのが、上野の国立西洋美術館で秋から開催している「モネ 睡蓮のとき」という美術展でした。
久々の鑑賞だったのですが、やっぱり美術に触れると良いですね。私は歴史も好きなので、解説を読んだりしてその時代背景を知り、いろいろな潮流が交差する中でこの作品が生まれたのか、なんて考えるのが好きなんです。
「モネ 睡蓮のとき」は大人気の美術展で、noteを拝見していても訪れた方が多く、これから行こうと思われている方も多いのではないでしょうか?
今回は「モネ 睡蓮のとき」によせて、そもそも「印象派って何?」というところから解説していきたいと思います。
「印象派」って何?
印象派というのは、19世紀後半にパリで起こった芸術運動で、目に映った情景をそのままキャンバスに移すように、自身の印象を絵画で表現した作風を好んだ画家たちのことを指します。
もともと、絵画というのは王族貴族向けに制作された「宗教画」が一般的でした。キリスト教においては「人間」こそが至高であるため、宗教画の多くは人間の描写に重きを置き、その背景である自然には無関心でした。
しかし、技術の発展とともに商業が盛んとなり、絵画は次第に王族貴族から資金力のある商人へ、フランス革命後王朝が没落すると、それまでお金持ちの娯楽であった絵画は、市民にも親しまれるようになります。
すると、絵画の嗜好は、難しい宗教画よりも、日常生活や自然を映した身近で気楽なものへと変化していきました。
宗教画から写実派へ、そして19世紀後半に登場したのが、モネを代表する「印象派」だったのです。
印象派の特徴
印象派絵画の特徴は以下の点が挙げられます。
屋内の制作活動から屋外へ:それまでの絵画制作は、屋内で行われていましたが、より写実的に自然を描写するため、19世紀前半より屋外での活動が主流となってきました。
空気や光も表現する:現実をあるがまま描写したいという画家の欲は、本来描写が不可能であるはずの空気や光の再現にも向かいました。それまでは「空は青」「葉は緑、幹は茶色」という対象物を決まった色で捉えていましたが、朝焼けにぼやける水面であったり、霧に霞む橋を表現するために、本来自然界には存在しないはずの、黄色・オレンジ・ピンク・赤などを多用し、光による微妙な空気の変化を的確に捉えることができるようになりました。
絵の具は混ぜない:絵の具は混ぜると色が濁る という特性を嫌い、絵の具を混ぜずにそのままキャンバスにのせて絵画を完成させました。スーラの点描に代表されるように、近くで見るといろいろな点の集まりでしかない絵でも、遠くから見ると色彩が目を通して調和し、一つの対象物として見事に表現されています。
浮世絵の影響を受けている:印象派の活躍した時代、日本は長い鎖国を終え海外との貿易が始まります。日本文化は海を渡り、ヨーロッパの芸術家たちの感性を刺激しました。もともと「市井文化」「自然を対象物とする」という点で印象派と浮世絵には共通点があり、さらに浮世絵の持つ大胆な構図や色遣いが画家たちに好まれたようです。モネの日本の藤の花や橋を自宅の庭におき、絵画の中で繰り返し登場しています。
モネ 睡蓮のとき
さて、印象派の基礎知識を学んだところで、鑑賞スタートです。
本展覧会は、マネの晩年(60~70代)に焦点をあてており、1890年パリから移住したジヴェルニーという地域で自邸を築き、日本文化にもインスピレーションを受けた豊かな庭を造成します。そこには、藤の花や日本の太鼓橋、そして繰り返しモチーフに登場する池と睡蓮がありました。
展覧会の構成
セーヌ河から睡蓮の池へ:パリ時代に身近にあったセーヌ河や、ロンドンのテムズ河にかかる橋を繰り返し描き、水面の反射や時間の移ろいを表現しています。この活動がのちの有名なモチーフ「睡蓮」に活かされていきます。
水と花々の装飾:印象派の画家たちは、主に室内装飾用の絵画を描いていました。モネもその一人で、晩年にも装飾画を創作する意欲があり、数々の草花を描いています。しかし、最終的には睡蓮と水面の反射に映るモチーフを中心に描いていくようになります。
大装飾画への道:本展覧会の目玉です。ここに飾られている睡蓮の連作は、パリのオランジェリー美術館に設置される装飾画として制作されています。この頃70代のモネは、その年齢を感じさせないほど精力的に、美術館の装飾画制作のために数々のモチーフを描きます。数々の習作を重ね、描き出した装飾画には、「睡蓮」「水面に反射する雲/光」「上部からかかる柳の木」が美しい色合いを持って表現されています。
交響する色彩/逆さまの世界:睡蓮の装飾画と並行して手掛けた作品群が並ぶこちらの展示。白内障に悩まされながら、経験に基づく色彩感覚のみで描かれた作品たちは、70代とは思えないほどの力強さが伝わってきます。また、最愛の妻の死、白内障、第一次世界大戦など数々の苦悩を経験したモネは、大装飾画の一部を国家へ寄与することを決意します。その絵画に描かれた柳の枝は、頭を垂れ、多くの死へ服喪する哀悼の意を感じさせます。
展示概要と混雑状況
私が訪れたのは、金曜の18時ナイトミュージアムの時間帯です。
チケット売り場は並ぶことなくすんなり入場できました。
しかし、口コミをみているとチケット買うのにも列ができているとのことなので、オンラインチケットを事前購入して、入館するのが無難です。
会場内も夜にも関わらず賑わっていました。絵画を真正面から見るには待つこともありましたが、作品が大型なのと人が流れているので、そこまでストレスを感じずに順番が回ってきます。
メインである第3展示室は、写真撮影okもあり、鑑賞するというより、写真を撮りたい人たちで混雑しています。鑑賞したい場合は、少し離れた位置から作品を眺めることをおすすめします。
鑑賞を終えて
この展覧会の目玉である、モネの睡蓮を間近で見ることができ、とても良かったです。間近で見ると、筆跡や色の配置まで確認でき、制作に励むモネの息遣いが感じられるようです。
また、個人的には第4展示室にある晩年の作品群が印象に残っています。私は、画家の晩年の作品を見るのが好きで、鑑賞者を楽しまれるために意識して作られた全盛期に比べ、画家自身の人間味が垣間見れる気がするのです。
今回の展示でも、晩年の作品群はメインの睡蓮や水辺のモチーフに比べ、荒々しく色合いも派手なものが多く、モネの印象が大きく変わりました。作品への評価はともかくとして、晩年のモネが、白内障や身近な人の死、戦争、衰えていく体に抗うように、制作に取り組んだと思うと、画面の向こうにいる画家の姿がより身近に感じられます。
絵を鑑賞するのに、知識っているの?
芸術ほど、個人の価値観で左右されるものはないですよね。自分は何がいいのかわからない作品でも、何億もの値段で落札する人もいるので、価値は人それぞれです。
前知識を入れずに、鑑賞した直感で絵の好き嫌いを判断するのも、決して間違った方法ではありません。
しかし、芸術品というものは必ずそれが制作された時代背景や文化を背負って誕生しているものです。その文脈を理解して鑑賞に臨んだ方が、より作品に対しての理解、画家に対しての理解が深まります。
また、企画展などは学芸員が全体の流れを考え、展覧会場の構成や作品の配置を決めているので、そういった点を考えながら展示室に入るもの、また楽しみの一つです。
この記事のような知識は、展覧会のHPにも書かれている基礎知識なので、鑑賞前に一読してから会場に向かってみてくださいね。
読んでいただきありがとうございました。