採用担当者が知っておきたい労務知識
企業の採用担当者は「採用」という重要な業務を担う以上、最低限の労務知識が必要ですよね。労務知識を持っていないと、知らないうちに法令違反を犯してしまったり、採用候補者の信頼を損ねてしまう可能性があります。
そこでこの記事では、採用担当者が知っておくと良さそうな労務知識をまとめてみました。採用と労務の両方を担ったことのある経験から、できるだけ分かりやすく、かつ実用的な知識をまとめたのでぜひご一読ください。
誠実な対応がいちばん大事
まず最初に、採用担当者として何より大事なのは候補者に対して誠実な対応を心がけることです。労務の知識、法律の知識はもちろん重要ですが、それ以上に日々接する相手が納得し、気持ちよく働いてもらえるよう誠実な対応をすることのほうが大事です。
しかし、労務の知識がないせいで、悪気はなくても結果的に相手にとって不誠実な対応をしてしまうことがありえるかもしれません。採用という重要な仕事を担う以上、誠実な対応をするためにも知識が必要なんですよね。
以下に記載したことを知っておけば、誠実でスムーズな採用活動がしやすくなると思いますので、参考にしていただけたら嬉しいです。
なおこの記事では、採用担当者とは別に労務担当者がいることを前提にしています。採用担当者がイチから労務も担当する場合にはこの記事だけでは不足ですのでご注意ください。
口頭内定も法的な効力がある
面接時に「あなたは内定です」「○月から働いてください」と口頭で内定を伝えたにもかかわらず、「やっぱり内定を出しません」とした場合、一方的な雇用契約解消として問題になる場合があります。
「まだ正式な書面は発行していないのに」と思われる方もいるかもしれませんが、雇用契約は口頭でも成立し得るのです。
これは、営業など別の仕事での社会人経験がある方ほど陥りがちな罠かもしれません。営業契約であれば、口頭で何を話そうとも契約書を取り交わさない限りは正式な契約となりませんが、雇用契約は口頭でも成立してしまうのです。無用なトラブルを招かないためにも、内定を伝えるときは慎重に行いましょう。
ちなみに、内定ではなく「内々定」であれば雇用契約は成立しませんが、内々定の取り消しは期待権の侵害とする判例もあります。内々定なら取り消せるということではありません。
オファー金額の内訳を説明できるように
さて、いざ正式に内定となったら、雇用条件通知書を作成して候補者へ渡すことになります。なお、雇用者には労働条件の明示義務があるので、条件の通知は必須です。
その雇用条件通知書に記載されているオファー金額の内訳を説明できるようになっておくと安心です。候補者にとって大事なお給料の話ですから、面談時に質問されたときに正確に答えられるといいですね。逆に、間違った説明をしてしまっては信頼を損なうばかりか、候補者に誤った選択をさせてしまうことにつながります。
一般的な会社の給与の内訳は「基本給」「残業手当」「その他手当」「賞与」などで構成されます。会社によって異なるその他手当はしっかり説明できるようにしておきましょう。それと、固定残業を導入している場合にはていねいに説明して候補者の不安を取り除けるといいですね。
また、「賞与」は会社によって扱いが異なるため、認識の齟齬が起きやすいものです。金額のインパクトも大きいのでしっかり説明できるようになっておくといいでしょう。賞与の支給条件・金額・算定期間・算定期間途中に入社した場合の取り扱いなど、正確に説明できるよう自社の賃金規定を確認しておきましょう。
特に、雇用契約書に記載されている理論値の賞与と実際に初年度もらえる賞与の金額が異なるケースはよく発生します。後々のトラブルを生まないために、雇用契約書にその旨を明記するとともに、口頭でも説明しておくと安心です。
パート・アルバイトを採用するときに知っておきたい社会保険加入要件
続いては、パート・アルバイトを採用するときに必要な労務知識です。まずは社会保険の加入要件について概要だけでも知っておくといいでしょう。
社会保険の加入要件について採用担当者が把握していないと、労務担当者と以下のようなやりとりになりかねません。
こんなやり取りをして労務担当者を困らせないよう、社会保険の加入要件について知っておきましょう。パート・アルバイトの社保加入要件は以下のとおりです。
こんなに細かいの覚えられないよー、という方は、1週間の勤務時間によって社保加入するかどうかが決まるから、「1週間にどのくらい働くかの確認が必要」だけでも覚えておいてください。1週間の労働時間さえ確認しておけば、あとは労務担当者が手続きしてくれるはずです(もちろん、社保加入要件を覚えられるのがベストですが!)。週の勤務日数がわからないと有給休暇を何日付与すればいいか判断できないですしね。
年々上がっていく最低賃金
最低賃金の存在自体は皆さん知っていると思いますが、年々上昇していくので注意が必要です。東京都を例にとると、2018年に時給985円だったものが、2023年には1,113円になっています。
最低賃金引き上げに気づかず最低時給以下で雇用してしまっては大問題ですから、厚生労働省の発信はチェックしておきましょう。
月給の時給換算方法
最低賃金=最低時給を守るためには、月給を時給換算にできなければいけません。月給から時給に換算するには、「基本給÷月の所定労働時間」で求められるので覚えておくといいでしょう。
なお、基本給は残業代や各種手当などを含まない点にご注意ください。
特に、固定残業代を導入していたり賞与の割合が大きい場合には同じ年収であっても基本給が低くなり、結果的に時給が低くなるので注意が必要です。
例えば年収350万円・固定残業代45h・年間賞与が月給の2カ月分・月の所定労働時間168h だった場合、時給に換算すると1,114円となり2024年6月時点の東京最低時給ギリギリです。同じ年収350万円でも、固定残業なし・賞与なしであれば時給1,736円となります。
このように、同じ年収であっても固定残業や賞与の有無によって時給額は異なるので注意しましょう。
5年以上の雇用で無期転換
最後に、有期雇用契約者の無期転換ルールについてです。
無期転換ルールとは、契約期間に定めのある従業員の雇用契約期間が通算5年を超えたとき、従業員の申し出があれば無期労働契約に転換されるルールのことです。この申し出を企業は断ることはできません。
また、2024年4月の労働法改正によって、対象従業員の雇用契約締結・更新時には無期転換を申し込む機会がある旨を明記する義務ができました。通算5年を超える延長をする場合には、忘れずに記載・説明するようにしましょう。
ちなみに以下の無期転換ポータルサイト、厚生労働省の発信の中ではトップクラスに見やすく分かりやすいです。
誠実に対応するためにも労務知識を身につけよう
以上、採用担当者が知っておきたい労務知識をまとめました。冒頭の繰り返しですが、採用担当者にとってもっとも重要なのは候補者に誠実に対応することです。知識不足が原因で不誠実な対応を行わないために、この記事を参考にしていただけたら嬉しいです。
なお、この記事は2024年6月時点の内容であることと、正確さよりも分かりやすさを重視していることをご了承ください。正確な情報は公式(多くの場合は厚生労働省)を参考にしてくださいね。