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はひふへほ

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記事一覧

【超短編小説】歯医者

「この前俺、親知らず抜いたじゃん?」
会社の昼休み。同僚の中村が、真剣な顔で話しかけて来た。
「あー、無茶苦茶頬っぺた腫れてたね。」
数日前の中村の様子を思い出して笑いそうになる。
「その手術中なんか、怖くなってきちゃってさ…。」
「え、そんなに痛かったの?」
「いや、部分麻酔してたから、別に痛くは無かったんだけど、この歯医者は、どういう理由で歯医者になったんだろうな…。って考えてたら、怖くなって

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【超短編小説】一人

「押すなよー。押すなよ。絶対押すなよ。」
「…。」
「え、なんで帰ろうとしてんの?」
「え…?」
「一回リュックを置け。え、なんで帰ろうとしたの?」
「いや、押すなって言われたんで。帰った方が良いのかな…って思って。」
「いや、『押すなよ』は『押せ』って意味だから。帰るなよ。俺を一人にしようとすんな。」
「…?」
「なんでわかんねぇんだよ。『押すなよ』って言われたら押せば良いんだよ!それだけ!帰る

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【超短編小説】夫婦

 確か、僕が中学2年生の頃の話だ。その日、母と姉はジャニーズのコンサートに行っていて、僕と父は家で二人きりだった。「昼飯どうする?」と父に聞くと「二人だし、贅沢しようか。」と悪そうな笑みを浮かべた。

 父の車に乗り込み、着いたのはびっくりドンキーだった。びっくりドンキーでハンバーグを食べることを「贅沢」と呼ぶのは、今思えば可愛いものだが、当時の僕にとっては充分贅沢だった。(いや、ちょっと調子に乗

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【超短編小説】偏屈な奴

「運動会ってこの世から無くなれば良いのにな。」
以前から偏屈な野郎だとは思っていたが、またクラスメイトの渡辺が何か変なことを言い始めた。
「いじめと和式便所と運動会は、今すぐ学校から排除すべき。」
「絶対そんなことないよ。」
「いやまあ確かに、便秘の人には良いとか、設置費用が安いとか、色々利点はあるけどね。」
「和式便所の話してないよ。運動会が必要だって話をしてんのよ。」
「あー。そっちね。」

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【超短編小説】本音

 今日、大学の友達に餃子パーティーに誘われた。友人に誘われる機会はあまり多くない方なので、誘ってもらえるのはとても嬉しい。だが、餃子パーティー…。うむ…。冷凍庫を開けると、冷凍餃子が2袋入っていた。本音を言うと、あまり餃子パーティーには行きたくない。
 俺は、冷凍餃子が大好きだ。冷凍餃子は、水も油もを使わずに10分もかからずに焼き上がる。しかも、無茶苦茶美味い。羽根までついてるのだから、文句のつけ

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