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なにぬねの

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記事一覧

【超短編小説】名前

 近所の公園に、愛犬のココと一緒に散歩に出かける。毎日同じ公園に通っているが、季節によって咲いている花や、木々の色、風の匂いが変化する。そして、新たな出会いがあったりもする。
「ハチ、行くよー」
私と同い年くらいの主婦の人が、可愛らしいトイプードルを散歩させていた。トイプードルにハチと名付けているのか…。いや、別に悪くはないと思うけれど、ちょっとだけ違和感があるような気がしなくもない…。
「あ、お

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【超短編小説】人間合格

 電車に揺られながら、ラジオを聴く。その時間が私は結構好きだ。車窓から見えるいつもの風景も悪くない、会社に着くまでの束の間の休息を楽しんでいた。すると、電車に70代くらいのお婆さん乗って来た。他に空いている席もなさそうだったので、私はイヤホンを外し立ち上がる。咄嗟に立ち上がろうとしたので、少しよろめいてしまった…自分がもうおじさんだということを改めて実感する。なんとか踏ん張り、お婆さんに話しかけた

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【超短編小説】塗り薬

 カフェでコーヒーを飲んでいると、隣の席から会話が聞こえてきた。
「この前、塗り薬を間違えて飲んじゃってさ…。」
「え、そんなことある?見た目で判断つくでしょ。」
「判断つかなかったから飲んだんでしょうが。」
「え、なんの薬飲んだの?」
「ボラギノール。」
「え、ボラギノール?痔を治すやつ?」
「うん。」
「あの見た目絶対飲み薬じゃないでしょ。」
「え、見た目パピコみたいじゃない?」
「馬鹿なの?

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【超短編小説】寝坊

 終わった。完全に終わった。

 今日は、数学の期末テストの日だ。俺の通っている大学では、成績が6割を下回ると単位を落とすこととなっており、期末テストの得点が成績の4割を占める。そして、数学は必修科目であり、この単位を落とすと留年が確定する。「救済措置を取ることはない」と、先週の授業で教授が話していた。したがって、「期末テストが受けられない」=「留年」なのである。
 テストの開始時刻は8時40分。

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【超短編小説】野良のルンバ

 目の前の道路を、ルンバが行き来している…。いやいや、そんなわけないと思い近づいてみると、確かにルンバだった。え、どういうこと?野良のルンバってこと…?いや、野良のルンバってなんだよ…。ルンバは、ひたすら道路を掃除している。ルンバって道路走れるんだな…と謎に感心してしまった。なんだかかわいかったのでしばらく見守っていたが、ふと我に返る。流石に意味がわからない、なんなんだこの状況は。このまま放ってお

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