アトナ
…街のゴミステーションを漁って生きてきたカラスが、ある日電信柱に止まっていました。
すると山の方から帰ってきたカラスたちが囁いているのを聞きました。
山で1人暮らす人がいた。
電線もない。他に人の気配もない。
あそこに人のゴミはないな
そう言いながら自分たちの住処へ飛んで行きました。
なぜそんなとこで暮らしているんだろうと気になり、次の日昨日カラスが飛んできた方へ行ってみることにしました。
しばらく山を飛んで行くと
小さな小屋の煙突から煙が出てるのが見えました。あそこだ。
降り立って、誰かいるのかいと声をかけました。
すると1人の女性が小屋から出てきました。
「あら街で暮らすカラスさんじゃないですか。」
彼女はアトナと言い、電気もガスも水道もない、道も舗装されていない場所に暮らしていた。
小屋の後ろには畑と田んぼが2反ほどあり、そこで野菜や穀物を育てているようだ。
カラスは訪ねます。
「どうして街の人のように、電気を使わないんだい?」
アトナは微笑んで言います。
「森の獣や地を這う虫たち、海に生きる魚と同じように生きてるだけだよ。あなただって電気はいらないでしょ。」
カラスは続いて
「ここには自動車の音も聞こえないし、誰も人が来ないみたいだけど、寂しくないのかい?」と聞きました。
アトナはやっぱり微笑んだまま「わたしは居たいと思う場所にしか居られないのよ」
そう言うと、風が吹いてアトナの髪を撫でて行きました。
空には飛行機雲が無数に後引いていました。
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