1月に観た映画をいくつか振り返る。
まずは映画のある生活の振り返り
2月が始まった。
始まったが、分かりやすいスタートの音頭はなく、ぬるりと始まった。
3月が始まる時も、4月が始まる時も、こんな風にぬるりと始まるに違いない。
ぬるぬるしすぎて、あっという間に1年が終わる。
その意識が自分の中でなぜだか強い。2025年は特に。
いま観ないとずっと観ないぞ! ………と自らに発破をかけて、自宅でも映画を観るようにしている。
去年まではどちらかといえば見るのはドラマだった。まあ今はどうしても見たいものが始まってないというのもある。
ただ、仮に見るものがあったとしても、何かと理由をつけて先送りにしていた。
約2時間も拘束されていては、生活の中でしなければならないことが出来ない。そんなことを考えてしまい、手が出なかったのかも。
それは正しい部分もあるが、同時にそうでもない面もあった。
この時間から映画を観る、と頭の中でスケジュールを登録する。パソコンのスケジュールアプリのような感覚で。
あとはその予定から逆算して今日やらなければならないことに優先順位をつけ、1つ1つ実行する。
そうすれば意外と観られた。予定外のことが起きたり想定以上に疲れていたら、もう諦める。
趣味は大事だが、そこまで根詰めて取り組むものでもない。そういう距離感を大事にしたい……といえるのが理想だが、その割にはきっちり予定を決めて映画を観ようとはしている。
こういう付き合い方は仕事と大差ない。ただこうでもしなければ、多分面倒くさがる。結局去年と同じ時間の使い方をしてしまう。
そんな恐れを常に抱いているのかもしれない。
ここまでは映画のある生活の振り返り。
映画鑑賞は行動であり、行動は生活や時間と切り離せない。
だからまずは生活レベルから映画を振り返った。
ここからは1月に観た全てを振り返るのではなく、特に思い返す作品をいくつか。
「悪の法則 特別編集版」
小説家コーマック・マッカーシーが脚本を務め、リドリー・スコット監督が撮った。
劇場公開版から27分ほど追加したらしい。とはいえその劇場公開版を観たのは随分前で、比較できるほど覚えていない。
去年から邦訳されたマッカーシー作品にどんどん触れていて、ようやくここまで来た。
最初に観た時に感じた得体のしれない怖さは、久しぶりに観てもやはり怖い。で、マッカーシー作品を経由してから再鑑賞すると、極めてこの作者らしい要素と魅力に溢れているのを実感した。
リドリー・スコット監督は見事に映像化している。
絶対的な狩る者。踏み越えてはならない一線。関わった時点で終わっていた状況。
世評は良くないらしいが、やはり好きだ。
観終わった翌日に本として発売されていた脚本を入手した。まだ手を付けていない。
原液に触れるのに近い気がしている。
「ハミングバード」
今年公開のジェイソン・ステイサム主演映画「ビーキーパー」を観て未見のステイサム作品を観たくなり、これにした。
監督はスティーヴン・ナイト。イギリスの脚本家で時々監督として作品を撮っている。
正直脚本家として関わった作品で観たものだと首を傾げるものもあるのだが、「スペンサー」は好きだしとりあえず観ても良いかなと思える人だ。
ただクセは強い気がする。本作は初監督作。
ステイサム主演作の多くは「元(職業名)」という肩書の人間が何らかの目的のもと暴力を行使するアクション映画である。たまに現役の時もある。
どちらにしても肉体を駆使する現場型の人間であることが多い。
「ハミングバード」は定型の構成を保ちながら主人公の心の苦しみや修道女との交流に重きを置いた作品。
ジョークを飛ばして笑ったり、怒りの沸点を超えて無表情になるステイサムは見慣れていたが、本作のように自身の抱える心の傷に思い悩んだり涙があふれそうになる顔を見せてくれるのは新鮮だった。
若い頃のベネディクト・ウォンが出演していて、ステイサム作品の出演者は驚くことが多い(ビーキーパーはジェレミー・アイアンズが良かった)。
「紅い眼鏡」4Kデジタルリマスター
押井守氏は主にアニメーションで映画を作る映画監督だが、実写も撮っている。
本作は1987年に公開された初の実写作品。
この度クラウドファンディングで4Kデジタルリマスターが施された。
想定以上の金額が集まり、なんとUHD化までした。
スチールブックも作られて、豪華な仕様となった。
出資者全員が幸せになれるリターン品だ。
この映画はエンターテイメント性よりも監督のフェティシズムが優先され、それがおびただしいほどに出力された映画である。
であるからこそ商業的な販売ルートの中で今回の仕様で発売される可能性は限りなく低く、このアプローチで正解だった。
その意味では奇跡というより、戦略勝ちといえるかもしれない。
私は本作を何度か観ているが好きな場面はあるものの、作品全体として好きかと問われると素直に頷けるか、不安な立場にいた。
しかしこうした機会は二度と訪れまいと思い、今回出資してディスクを入手、鑑賞に至った。
見惚れる、という感覚が最初にくる再鑑賞だった。
今回はUHDで観た。
本作はカラーからモノクロに移り変わる作品で、冒頭はカラーで話が進む。
その冒頭パートで登場する黒に、艶がある。
そして作品の大半を占めるモノクロ。光と影の明暗がハッキリとしていて、画面の奥の方まで判別できる。
建物の外観が作り出した光の屈折と柱の影が、この映画全体の迷宮を思わせる雰囲気をますます強めていた。
ストーリーは全く変わっていない。
しかし多くのショットに対してかつて観た時以上に惹かれている自分がいた。
このように感じさせてくれるのは嬉しい。
こうなると他の作品もリマスタリングして欲しいが、どうだろう。
という訳で、この3本で締め。
2月も色々観ていきたい。