マガジンのカバー画像

掌編小説

1
短編小説より更に短い掌編小説。ふと思い立ったら数分で読めるシンプルさが魅力です。
運営しているクリエイター

記事一覧

掌編小説 / 透明

掌編小説 / 透明

 どこか遠く離れても、きっと消えない。
 だって記憶は厄介だから。

「中々、言えなくて」
 あなたは少し笑った。
「大丈夫。ありがとう」
 少し離れたところで、西から広がっていく夕焼けを眺める。涙ぐんだその声はもう消えた。
「もう、いいんだよ」
 振り返ったその瞳が、じっとこちらを見てくるのを、静かに感じる。
「いいんだ」
 言い捨てたわけではなかった。けれど期待も、してはいなかった。

 何時

もっとみる