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『千夜千冊エディション』の句 / 玄月



① 『本から本へ』        パスカルを眼蔵させて春の宵 
② 『デザイン知』        佇んでクレー模様の頁かな
③ 『文明の奥と底』       神とヨブその相貌を奥へ呼ぶ 
④ 『情報生命』         意伝子のまじわりとどく時の声 
⑤ 『少年の憂鬱』        デミアンもフィンも百円菓子の色
⑥ 『面影日本』         何時みても稜威みてもなほ魂きはる 
⑦ 『理科の教室』        白亜紀の夜へ凍てつく息を吐く 
⑧ 『感ビジネス』        挟みつつ刻みつつ仕事食む
⑨ 『芸と道』          時姫へ玉男あやつる世阿弥抄 
⑩ 『ことば漬』         紙々の文字繰りからに経を誦む
⑪ 『神と理性 西の世界観Ⅰ』  神託を縊り束ねてラティオ摘む 
⑫ 『観念と革命 西の世界観Ⅱ』 動乱の意想メフィストフェレスめく
⑬ 『編集力』          指先に擦傷を識る文庫かな 
⑭ 『心とトラウマ』       別人も背中あはいの春ぬるむ 
⑮ 『大アジア』         地図亜細亜男児帰去来明朝印字
⑯ 『宇宙と素粒子』       一枚の紙を手折って夜を食む
⑰ 『物語と函 世界名作選Ⅰ』  日向の風車男の天さかる
⑱ 『方法文学 世界名作選Ⅱ』  ナジャと裸のランチか夢うたた
⑲ 『サブカルズ』        窓際にフィギア語らふ冬至かな
⑳ 『仏教の源流』        ひとひらの天上天下無我無常
㉑ 『資本主義問題』       本・札が嘯いている芸市かな
㉒ 『全然アート』        描く彫る象る擬く秋落暉 
㉓ 『日本的文芸術』       まじりあふ黴と檸檬と門左衛門
㉔ 『電子の社会』        ゼロイチの典礼しくむ議定術
㉕ 『読書の裏側』        紙葉いま圧殺されて本の夏 
㉖ 『戒・浄土・禅』       透体を脱落せしむ春に風  
㉗ 『源氏と漱石』        行人の膝に読み染む歌冊記
㉘ 『昭和の作家力』       春の奥 浪漫二冊想外五冊
㉙ 『性の境界』         虹の夏 LGBT Qならむ
㉚ 『数学的』          白墨の零れるあたり春の式

玄月(故 松岡正剛氏)