「強者の土俵で勝負をしない」戦略の妙
世の中には、大変優れた実績を上げる、いわゆる「天才」と呼ばれる人々がいますが、そういう人たちは、その自分たちの分野における修養の時間に、「少なくとも1万時間を投入してきた」という「1万時間の法則」があると言います。
わかりやすいのは、音楽家の話で、一流の音楽学校に入学する実力を持つ者で、トップになれるかなれないかは、単純に「熱心に努力するかどうか」にかかっているのだと言います。
とりわけ重要なのは、「頂点に立つ人物は他の人より少しか、ときどき熱心に取り組んできたのではない。圧倒的にたくさんの努力を重ねている。」のだと言います。
※『天才! 成功する人々の法則』マルコム・グラッドウェル著、勝間和代訳、講談社刊
これについては、「因果関係が逆ではないか」という異論があるようです。
「音楽が好きになったのは才能があり、得意なことを好きになり、練習によって上達すると(周囲の評価が上がって)ますます好きになる。この好循環によって1万時間に達するのだし、つらい練習もいとわなくなるのだ。」とし、その検証実験では、音楽家のうち、「非常に良い(Sクラス)」と「良い(Aクラス)」とでは、練習時間はほとんど差がなかったと言い、だとしたら、何がスーパーエリートを生み出すかと言えば、環境的要因と遺伝的要因の2つが複雑に絡み合っているからだとされました。
つまり、「成功するには努力が必要だが、努力だけでは成功できない。もって生まれた(遺伝的な)才能が、努力できる環境をつくり出すのだ。」というのです。
※『シンプルで合理的な人生設計』橘玲著、ダイヤモンド社刊
同著では、別の箇所で、「努力の限界効用逓減の法則」(もともとの言葉では、「予測のパレート曲線」と言う。)という努力と結果(勝率)の理論について述べられています。
「努力の限界効用逓減の法則」では、初心者にとって努力は大きな見返りをもたらすが、上達するにつれてその効果は減っていく、つまり、「(最初の)20%の努力で80%の能力を獲得できる」という法則があると言います。
しかしながら、問題は次のステップで、努力が実を結ばなくなると言うのです。
つまり、今度は、「80%の努力で20%程度の能力しか獲得できなくなる」と言い、これが「まあまあ(Bクラス)」と「非常に良い(Sクラス)」との差を分けるのですが、1万時間の練習(80%の努力)をすれば自動的に20%能力が伸びて、頂点(100%)に到達できるわけではなく、セミプロからプロへの最後の20%はきわめて困難なので、圧倒的な才能と圧倒的な努力を備えた者しか乗り越えることができないと言うのです。
で、要は、そんなことは誰しもができることではなく、一般人について言えば、「自分の能力が優位性を持つ市場を見つけろ」ということに尽きます。
つまり、「どれほど高い能力を持っていても、優位性がなければ何の意味もない。それに対して、平均よりすこし上(上位30~40%)の能力しかなくても、競争相手の平均がそれ以下ならじゅうぶんな利益(金銭的な収入と高い評価)を獲得できる」と言うのです。
そのため、生き物が進化の過程で獲得した「棲み分け」の理論が役に立つと言います。
つまり、競争する場所を「棲み分け」することにより、競争せずして、「ナンバーワンになれるオンリーワンの場所」を、私たちも獲得しなければ生き残れないのです。
そのためには、「強者の土俵では戦ってはならず」、「相対的な優位性を獲得できるまでコア・コンピタンス(強み)をずらしつづける」ことにより、「競争の本質は競争しないこと」に至るのだと言います。
大抵の者は、圧倒的な才能と努力は持たないのですから、相対的優位性に至るまでコアをずらし続けるという概念は重要ですね☆。