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『ゆるい職場』に見る若者の離職率上昇

 先日、職場内でも、よく働く優秀と目される若手が、年度末で退職するとの知らせがありました。

 確かに、なかなか厳しい職場であり、一定の理解はできるのですが、入社時の志望動機のひとつは、「ホワイトな会社である」だったはずで、大変残念に思います。

 本日、それに関連してか、手に取ったのが『ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由』(古屋星斗しょうと著・中公新書ラクレ刊)であり、一気に通読しました。

 氏は、経済産業省を経て、現在は、リクルートワークス研究所の主任研究員の立場で、「学生・若手社会人の就業や価値観の変化を検証し、次世代社会のキャリア形成を研究している」方です。

 同著では、大企業を中心に、新卒3年以内の離職率が、この数年で、特に高まってきているということが指摘されています。実に、約30%です。

 これは、中小企業と比較して、10ポイントほど高く、中小企業と比較して、大企業の方が、ブラック企業の割合が低いはずなのに、なぜか、と疑問がわきます。

 実は、2010年代後半から、氏が「職場運営法」と呼ぶ職場運営に関わる法令が改善されてきたことに起因するというのです。

①2015年からの若者雇用促進法の施行。新卒者を募集する企業に幅広い情報提供を事実上義務付けた法律。自社の残業時間平均や有給休暇取得日数、早期離職率などがその項目。

②2019年からの働き方改革関連法による労働時間の上限規制が大企業を対象に施行。

③2020年からのパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行。

 こういった法制度は、日本の全ての企業・職場の労働環境に影響を与え、とりわけコンプライアンスに厳しい大企業はこれらを遵守することになったのだといいます。

 このことに起因して、職場は、2010年代後半から、どんどん「ゆるい職場」(別の言い方をすれば、ホワイトな職場)になっていき、大企業に勤務する若手社員の多くが、「負荷は高くないし理不尽さもない、叱られないし居心地がいいが、仕事に余力を残す」という“持て余し感”を抱くようになっていったといいます。

 それにより、職場環境が良くなったのは事実なのですが、それなのに、逆に、若手社員の離職率が高まってきているのです。

 これを氏は、「仕事がきつくて辞めたい」ではなく、「仕事がゆるくて辞めたい」と思っている若者が多数存在していると指摘するのです(>_<)。

 今の職場は、以前に比べて、量負荷(労働時間)・質負荷(仕事の難しさ)・関係負荷(理不尽さ)のいずれも改善してきており、職場環境は良くなっています。そのため、職場のことを好きな若手は増えているといいます。

 ここで終われば、ハッピーエンドなんですが、現状離職率は上昇しています。

 その理由をよくよく調べてみると、ストレス実感そのものは高まっているといいます。そのストレスの内容はというと、「別の会社や職場では通用しないのではないか」、「このままでは自分の会社でしか生きられないのではないか」というキャリアへの焦燥感や不安が、逆に高まっているのだといいます。

 こうして、以前の「職場がきつくて辞める」の“不満型転職”から「職場がゆるくて辞める」の“不安型転職”へ変化してきたのだと指摘します。

 確かに実際の若手の言葉の端々にそのようなニュアンスが感じ取れますし、そういう不安型転職の人は、社内的にも自律型の優秀な人材が多いのが、概ねの共通認識です。

 この時代の流れを改善するのはなかなか難しそうですが、みなさんにもこのような状況変化は思い当たる面もあると思いますよ。

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