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寛容論・不寛容論

多様性を実現するには寛容が必要。分断よりはわかり合いたい。
とはいえ、全てを受け入れていたらボロボロなるし簡単に実践はできない。日々のニュースで、目の前で、SNSで不寛容を目の当たりにして、寛容になれるのか歴史から答え合わせしたかった。

寛容のパラドックス」というカール・ポパーが提唱した概念のとおり、フラットに異なる属性、思想の人々がいくらでもつながる「多様性」は居心地の悪い調整だらけではある。

「もし社会が無制限に寛容であるならば、その社会は最終的には不寛容な人々によって寛容性が奪われるか、寛容性は破壊される」

「寛容な社会を維持するためには、社会は不寛容に不寛容であらねばならない」

ヴォルテールの『寛容論』と森本あんりの『不寛容論―アメリカが生んだ「共存」の哲学』をあわせて読んでみた。

『寛容論』ヴォルテール

ヴォルテールが『寛容論』を書いたのは1763年、カトリックとプロテスタントの分断と不寛容による冤罪の「カラス事件」が起きたときだった。

ヴォルテールは古代ギリシア人、ローマ人の在り方を遡り、地続きで多様な価値観の人々がいるヨーロッパの本来の姿を提示しようとした。
ヴォルテール自身はパリのブルジョワ家庭生まれで、主軸は宗教の宗派の違いによる不寛容是正を説き、当時の階級の差異には切り込んでいないし、現在語られるグローバリゼーションの規模ではない。

ただし、寛容についての考え方は普遍性がある。

寛容はけっして内乱の原因にはならなかった。不寛容が地上を殺戮の場に変えた。

寛容をあらわす"toleration"は、寛容以外にも「忍耐」「容認」も意味する。異なる思想を持つ人々と共存せざる得ないヨーロッパの大陸で、他者への違いを認め、そこで生まれる軋轢への耐性とも読み取れる。

寛容論はさまざまなものがあり、トマス・モアの『ユートピア』での宗教的寛容論ジョン・ロックの『寛容についての手紙』、マルクーゼの『抑圧的寛容』、ゴットホルト・エフライム レッシングの『賢者ナータン』で描いた「寛容と人類愛」など。今後読んでいきたい。


『不寛容論―アメリカが生んだ「共存」の哲学』森本あんり

『不寛容論』はヴォルテールの寛容についての言葉からはじまる。

「わたしはあなたの意見に反対だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」
ヴォルテール

今後、否応なく異なる思想や価値観の人々と共存していく世界で、寛容であることは重要。しかし寛容論を唱えた過去の哲学者たちは、みなリベラルで合理主義的で「法外なまでに啓蒙主義だった」という。

寛容の概念は日本の社会で実現できるのか?
ほとんど単一の民族で成り立ち、同質性の高い日本では寛容は、あまり必要とされる概念ではなかったかもしれない。それでも移民の数は世界4位になるほど増加しており、「空気」という名の同質性から寛容へ転換していくべきだと思う。

多神教で一見寛容そうなのが日本。
クリスマスと正月を祝い、神社でお宮参りをして教会で結婚式を挙げ、寺で葬式をしている。
しかし、他宗教に対しての意識調査では信頼度が低かったり、道徳的と考えていない結果が示されている。(調査:現代日本の宗教事情〈国内編I〉より)

人は未知のものには不寛容に、既知のものには寛容になりやすい。特にこれは宗教や性の問題に関する態度決定で顕著である。

日本的寛容には、未知への不寛容と、無関心な「無寛容」があるという。

本書では、現代社会に合わなくなりつつある、ヨーロッパの哲学者による啓蒙主義とは異なった、神学者ロジャー・ウィリアムズの良心論が詳しく展開されている。ウィリアムズは、イギリスでピューリタンとして生まれ、1630年代にアメリカに入植し、先住民を尊重した取引でロードアイランド州プロビデンス市の創設した功績がある。

ウィリアムズの論理は、自分にとって自分の信仰はかけがえのない尊いものだから、他者にとってもその人の信仰は大切であるに違いない、というものだった。


タイトルは『不寛容論』だが、不寛容に陥る理由を分析し、寛容論への実践を提示している。
これまでの寛容さは、摩擦を避けるためしぶしぶ相手を許容する「伝統的な寛容」だったものが、相手を尊重し敬意を持った「肯定的寛容」「強い寛容」「認知としての寛容」「水平的寛容」と、社会で実践されるための研究が進んでいるという。

多様性とはめんどうな対話と存在許容なしでは達成できない。
そのために寛容な姿勢が必要になるが、最近では、常に他者を是認することになる感情的動員の「リベラル疲れ」が起きていることも、触れられていて興味深かった。

多様性と一言でいっても範囲は広く、人によっては譲れない範囲もある。自分/相手の譲れないものを守りながら他社と共存する上で、ウィリアムズが先住民と共存しコミュニケーションで用いた「礼節」から学ぶことが多い。

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不寛容の正体を理解することで、寛容であるためにどう実践すれば良いか、理解しやすい内容だった。

Photo by Viktoria Sotsugova on Unsplash

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Jun Nakama
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