また会いましょう。 | ひび

地元唯一の大型書店が6月末で休業するというので、買い納めに行ってきた。

午前中、自室で買いたい本をメモに書く。最近は「未知の感覚」に出会いたい気持ちが強いので、知人や友人がSNSのブックカバーチャレンジで勧めてて気になったり、電話で話したときにおすすめしてもらったりした本を書いていく。あとは、ずっと買いたいと思ったのに買えてなかった本。7つの書名がそろったところでメモの線がなくなったのでやめた。

テレビで今日明日は大雨ですと言っているアナウンサーの声を3回ぐらい聞く。みんな別の人の声。

昼過ぎにバスに乗って書店に向かう。途中、中高一貫校の前のバス停で高校生の群れを見た。全員が白いカッターシャツを着て、学校指定の黒いカバンを肩からかけている。最近、人間の集団を見ることがなかったので余計に異様に思える。群れだ、と頭の中でもう一度つぶやいた。

目的地の3つぐらい前のバス停で、女子高生が「あーあ。全部すっ飛ばして早く大学生になりたい」と言いながら降りていった。イヤホンをしていたのでその前の女の子たちの会話がきちんと聞けていない。なんとなくテストのことだった感触はあるのだが、きちんと聞いておけばよかった。

バスを降りる。天神はやっぱりおしゃれな女の人が多い。黒い半袖のトップスに、光沢がある生地の薄いベージュ のスカートを履いた人。白い半袖Tシャツにジーパン地のサロペットを組み合わせた人。

書店に着く。同じぐらいの年代から結構お年を召した方まで、それなりの数の人間が店内にいる。検索機の前に立って、メモを片手に書名を打ち込んでどんどん在庫を確認していく。一番欲しかったヘンリー・ミラーとパウル・ツェランの詩集はどちらも在庫切れ。

在庫があるとわかったものは、棚番号が書いてある紙を印刷する。メモの最後まで行き着いたところで、本を入れるかごを片手に持ってエスカレーターで文芸書がある2階に上がった。

棚番号の紙を見ながら欲しかった本をどんどんかごに入れていく。途中、色んな本の表紙が目につく。本当にたくさんの本があって、訳がわからくなる。棚番号の紙を頼りに、少し逃げるような気持ちで本棚の間を移動した。

図書館に住みたいと思ったことはあるけど、本屋に住みたいと思ったことはないな。なんでやろ。ここの言葉たち、夜になってもずっと起きてしゃべってる気がするからかなとか考える。

一枚、「在庫の場所については書店員にお尋ねください」と書いてあったので書店員さんを探すが2階には見当たらなかったので1階に降りる。検索機が何台かおいてある島のカウンターの中にいる書店員さんに紙を差し出すと、他の階にいる書店員さんに電話で在庫を確認してくれた。

電話先からの折返しを待つ間、漫画がほしい!と思ったので市川春子『25時のバカンス』の在庫を検索機で確かめる。在庫あり。

書店員さんに確認してもらった本(木村俊介『インタビュー』)を受け取って、漫画がおいてある4階に上がる。目当ての漫画をカゴに入れたところで、まだ海外文学をかごに入れてないことに気づく。

私は海外文学に全く明るくないし、ほしかった本は在庫切れだった。なにより、今からこの膨大な本の中から自分が読む本を一から選ぶことなどできそうにない。

海外文学が好きな友人にラインをした。
「いきなりごめん。海外文学でおすすめの小説とか詩集ある?」
彼女から名前が上がってきたのは、ポール・オースターとスティーブン・ミルハウザー。彼女はちょうど自分の家の本棚の整理をしていたみたいで、「今からケリーリンクの『マジックオブビギナーズ』を読み返そうと思ってます」と教えてくれる。最後に「あと、もしかしたら菜花さん好きかもしれないのが、エイミーベンダーです!」と送られてきて、とても嬉しくなる。聞いたことない作家さんなのも相まって嬉しい。新しい言葉を食べて、新しい表現を吐き出したいと思っていたのでちょうどいい。

4階から検索機がある1階まで、各階をぐるっと1周しながら降りていく。英語の勉強、経済、SDGs、料理、ダイエット……本当にたくさんの本がある。こんなにたくさん言葉を抱えていてこの建物よく沈まないな。私の頭の中に詰まっているものなんて、立ち並ぶ棚ひとつの一段分もないんじゃないだろうか。途方もない気持ちになる。

さっきの友人に「信じられないぐらい本がたくさんあってなんだか絶望に似た感情がわいてくる…」と送ると、「なんか、訪れた人がその書店への思いを書いていっているノートがあるんですよね…?ジュンク堂?」と返してくれた。東京にまで届いてたのか、あのニュース。

「そうそう!
ああいうのニュースにされると醒めてしまうひねくれ者なので、スルーしてます(わら)」と返したらなんだか平気になってきた。

1階の検索機で、ポール・オースターとスティーブン・ミルハウザー、エイミー・ベンダーをさがす。ミルハウザーは、ほとんどが在庫切れ。オースターの『ブルックリン・フォーリーズ』とエイミー・ベンダーの『燃えるスカートの少女』が面白そうだったので、棚番号の紙を印刷してまた2 階に上がった。

『燃えるスカートの少女』は何ページか読んだ感覚が肌なじみ良かったので、迷わずかごに入れる。『私自身の見えない黴』もあらすじと書き出しだけでは先が全く見通せないのが面白そうだったけど、また今度。

『ブルックリン・フォーリーズ』は、文章が少し難しそうだった。アメリカの人は何でも説明したがるからなのか、ページを開いたときの単語の量が多い。
けれど、新しい言葉を食べるんだという欲望と使命感もあるし、オースターの本はどれも翻訳が柴田元幸さんなのでどれかは買おうと決める。10冊近くある作品のなかから、裏表紙のあらすじで『幽霊たち』に決めた。

つぎの予定まで時間があったので、立ち読みテーブルで武田百合子の『日々雑記』を15ページほど読んで、レジに向かった。

今日買った本は、

津村記久子『ブラジルの浮遊霊』
西加奈子『さくら』
はらだ有彩『日本のヤバイ女の子 静かなる抵抗』
市川春子『25時のバカンス』
木村俊介『インタビュー』
カミュ『ペスト』
ポール・オースター『幽霊たち』
エイミー・ベンダー『燃えるスカートの少女』

これから先、本棚に並んだこの本たちを見たときにジュンク堂を思い出せるといいと思う。

店を出ると変わらず雨が降っていた。傘を差しながら外観をカメラに収めようとしたけれど、本を抱えているのであまりうまく撮れなかった。

書店は一帯の再開発が終わった後、4年後に戻ってくると言われているが、絶対じゃない。実現しないかもなんて、噂だけど耳に入ってもくる。私は高校卒業以降、福岡に住んでいない時期も長かったし、このお店にまつわるドラマチックなエピソードなんて全く持ってないのだけれど、ひとまずこれだけは言おうと思います。

また会いましょう。

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