書きたいけど書けない。なら、人の手も脳みそも借りるんだ!
小学校の国語の授業には、年に一回ほど「物語を書こう」という単元がある。
起承転結とか山場をつくるとか、学年や教科書によってテーマは様々。
子どもたちがわりと、楽しく活動できる単元でもある。
自由に想像して書けるし、ゾロリやおしりたんていの著者さんになったつもりで、物語をつくるのはワクワクするんだそう。
出来上がった後にみんなで読み合うのも楽しい。
それぞれの個性が作品の中で爆発していて、すっごく面白い。
なかでも忘れられないのが、あれこれ手立てを工夫して書き切った、子ども達の作品。
彼らに書く喜びを感じてもらえたこと。
クラスのみんなが協力してくれたこと。
手立てを工夫したり、試行錯誤した自分にもナイスをあげたい。
ある年一緒に学んだ男の子。
彼はクリスマスの話を書きたかった。
そこまでは決まっていたが、あらすじ作りが全然進まない。
「どうしたの?」
尋ねてみるが、黙ったまま。
伝えたい事を文にするのが苦手な彼。
でも言いたいことも、書きたいこともある。
頭の中にあるものを、口頭で説明することならできるかな?
「じゃ、どんな事書きたいか教えて。先生メモするから。
まず、どんな人が出てくる?」
「うーん、サンタさんと男の子」
「いいね。その2人が、どんな事件に出くわすの?」
「ソリで行こうとしたら、トナカイがいなくなってるわけ。で、慌ててまわりを探したら、スノーボードがあるわけよ」
「えー、面白いね。それで?」
どんどん喋ってもらう。私はどんどんメモする。
そうしているうちに物語が完成してしまった。
「じゃ、あとは作文用紙に写して書いていくといいね」
「うん」
嬉しそうに彼は書き始めた。
自分の考えていることが形になった。
きっとそれは、普段の彼がやりたくても上手くやれなくて、もどかしい思いをしている事でもある。
スッキリした顔で、彼は「できたよー!」と作文用紙を持ってきた。
別なクラスでの事。
そのクラスで出会った男の子は、こだわりが人いちばい強い。
自分が納得しないと動き出さない。
まずは時、場所、人物、性格や特徴を書き出してみよう。
そんな活動なんだけど、彼はメガネに手をやったり、腕組みをしたり、うーんと首をひねったり。
そう、作業が進んでいなかった。
何か納得いかないことがあるんだろう。
で、それはおそらく彼本人にもわからない。よく分からないけど、ハマらないのだ。
なので、直接どうした?と彼に尋ねるのは、あんまりスマートじゃない。
彼に声をかける。
「なかなか決まらなくて、困ってる?」
うん。彼は首を縦にふる。
「じゃあさ、みんなにもヒントもらってみようか。どう?」
彼の顔がパァッと明るくなる。うん、と頷く。
「皆さんすみませーん、ちょっとだけ時間もらっていいですか。一緒に考えてもらえないかな?」
私は黒板に、彼が決めていた「人物」の部分を板書する。
「イラブチャーが主人公の物語を描きたいんだって。
で、場所とか時とか、いろいろヒントをもらえないかな」
「うーん、やっぱりイラブチャーだから海?」
「うんうん。どこの海がいいかなあ」
「意外に寒い海とかよくない?」
「川とか」
「あ、面白いねー」
次々板書する。
彼も腕組みをしながら聞いている。
「イラブチャーはどんな人物?」
「イラブチャーなのに見た目が地味」
彼の口が「ほおー!」って形をしている。
「あ、これで進められそう?」
彼が頷く。
「うん、じゃヒント参考にやってみてね。みんなもありがとうね」
ここからはサクサク進んだ。
見た目が地味で「どうせ」が口癖のイラブチャーが、とある出来事を機に前向きに変身していく大作。
ひとりで書き上げた彼は、誇らしげだった。
ちなみにイラブチャー(アオブダイ)知らない人はググってね。これ食べられるの?と大抵聞かれる、派手な模様の魚です。
「できた!」って喜びの、すぐ側にいられる。
これって教師の醍醐味だと思う。
彼らに書く喜びを感じてもらえて嬉しかった。
また、みんなが協力してくれたことも嬉しかったし、そんな学級に育っている事がさらに嬉しかった。
彼らの困りごとを解決する方法を、個々に合わせて考えられた自分にも、拍手をあげたい。
楽しかったねえ。
【今日のしつもん】
やりたいけどやれないジレンマを、どう乗り越えますか?