開催記録|家畜化された昆虫、カイコにおける空間学習課題の検討とこれまでの研究の振り返り
(2022.08.20のブログ記事を転載したものです)
先日、「家畜化された昆虫、カイコにおける空間学習課題の検討とこれまでの研究の振り返り」というテーマでオンラインによる研究会を開催しました。
心理学と言えば、「人の心」についての学問というイメージがあるかと思います。それはそのとおりです。しかし、「心」とは人(ヒト)だけのものでしょうか。私たちは、犬にも猫にも鳥にも、ときには動物を超えて植物にも、あるいは、人形などの無生物にも「心」を感じます。これは、人間が人間以外に「心」を感じていると見ることもできますが、そうでない見方もありうるでしょう。
心理学では、動物を使った研究にも一定の蓄積がありますが、その中でもさらに異質の、カイコを対象にした研究があります。家畜化されたカイコは、野生に戻る能力を完全に失った動物です。人間の手がなければ生きることができないと言われています。すなわち、人間に飼い慣らされているわけです。しかし、そのようなカイコでも「心」はあるのでしょうか。
今回、「心」の重要な要素である社会性に着目したいと思います。1人ではなにもできないカイコ。集まるとどうなるのでしょうか。家畜化されたカイコを対象とした社会性についての研究発表を通して、社会性について考えてみたいと思い、研究会を企画しました。
以下はそのときの記録です。
研究会詳細
参加者:4名
開催日時:2022年7月28日(土)
開催時刻:10時〜12時
発表者
綱島 茉有子
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大学卒業後一般企業にて勤務。周りの手助けを頂きながら、卒業論文を元に2014年・2015年日本心理学会で発表。
概要
2014年、2015年の日本心理学会で発表したカイコにおける空間学習課題を検討した研究の概要を発表させて頂きます。どうしてカイコを研究対象として選んだのかといった研究着想の経緯や、今まで行ってきたいくつかの実験の振り返りを苦労話と共にお話させて頂ければと思います。
カイコといえば養蚕によって絹をつくる昆虫としてよく知られていると思いますが、実は集団飼育が可能で絹糸の生産に特化させる形で家畜化された昆虫でもあります。家畜化された昆虫、カイコは自然界では餌を探すこともできず、生き延びることができないと言われており、人の手がないと生きていけない昆虫です。このような生物であるカイコにはいったいどのくらいの学習能力があるのだろうかという疑問を、餌場の位置を学習させる課題(空間学習課題)によって検討しました。
私たちの研究では、カイコは単独での空間学習はできず、集団での空間学習ができることが示唆されています。家畜化のプロセスによってカイコが集団での生活ができるような特性を獲得していくなかで、単独時と集団時で発揮できるパフォーマンスにも違いが生まれるようになったのではないかと考えています。
また、同じ昆虫の中ではハチ・アリ・ゴキブリ・コオロギなどで行動に関する先行研究があり、中には人間と同じようにコミュニケーションを取り合う昆虫もいることがわかっています。カイコももしかしたら、同じように集団内でコミュニケーションをとっているのかもしれません。
大学を卒業してから、このような発表の機会が少ないためブランクがありますが、皆さんの貴重なご意見を頂戴できればと思います。
感想
カイコで明らかにされたことが即、人間の理解に繋がるわけではないと思います。しかし、カイコの研究を通して議論をすることで、「心」の見方を考える契機になるなと思いました。
カイコそのものについて考えることも楽しいのですが、カイコについて考えることが翻って、人間を考えることになるなと思いました。
人間をどこまで生物として考えていいのか、改めて考えるきっかけになりました。
次回の研究会
以前、心理学における統計分析(心理統計)利用を考えるの巻の後援を本会DigRoomが行いました。次回は、DigRoomでも改めて心理学における統計分析について考えたいと思い、統計分析について勉強会を企画しています。
数学教育が専門の講師をお呼びして、統計分析(検定や推定)を改めて学び直そうという企画です。統計分析をどのように教えたら良いのか(教授法)という観点からも参考にできるような企画を考えています。
開催日時は9月10日(土)15時〜です。具体的な詳細が決まり次第、改めてお知らせいたします。
次回もみなさんとともに考えられることを楽しみにしています。
主催
DigRoom:「心」「人間」「心理学」について考える研究会です。
|本会は日本心理学会の研究集会等への助成による助成を受けています。