卒業論文に書く内容
卒業論文は一般的に「問題」「方法」「結果」「考察」「引用文献」「その他(付録・謝辞等)」という章立てで構成されます。ここでは,各パートでどのようなことを書いたらいいのかについて簡単に道案内します。ただし,必ずしもここで述べるように書かなければならないというわけではありませんので,各自で必要な内容を適切な量で書くようにしてください。
問題」で書く内容
「問題」は「なぜこの研究をやる必要があるのか」について読み手に伝えるために書かれます。「私がやりたかったから」はもちろんダメで,自分が行う(行った)研究が論理的に考えて必要であると読み手にも感じてもらえるように書く必要があります。
一般的には「導入」,「先行研究のレビュー」,「レビューの結果分かったこと(先行研究の不足点など)」,「本研究の目的」という流れで書かれます。
導入
「問題」の冒頭では,卒業論文で行う研究が広く一般の事柄と関連していることを記載することで,多くの読者に興味をもってもらえるようにアピールします(図1)。一般の事柄とは世の中で話題になっていることでもいいですし,研究史にとって重要な事柄でもいいと思います。もちろん両方の事柄を記載しても結構です。
晩婚化や非婚化,それに伴う少子化など,近年,結婚にまつわる問題が社会的な関心事となっている。このような問題は,…
図1. 「導入」の一例
先行研究のレビュー
自分の研究テーマや関連する研究テーマで,これまでどのような研究が行われてきたのか(先行研究),先行研究は何を明らかにしてきたのかについてレビューします。できるだけ多くの論文や書籍を参照,引用して,そのテーマの研究史(そのテーマのこれまでの研究の歴史)が読み手にも分かるように記載します。
先行研究を紹介する場合は必ず引用を示します。引用の仕方は「日本心理学会 執筆・投稿の手引き」を参照してください。また引用した論文や書籍は必ず卒業論文末尾の「引用文献」にて記載します。
レビューの結果わかったこと
先行研究をレビューし,これまでにわかったこと,わかっていないことをまとめます。そのうえで,わかってないことのうち,自分の研究では何に着目しようとしているのか,そしてなぜそれに着目する必要があるのか,ということを記載します。
本研究の目的
これまでの話を踏まえたうえで,本研究ではどのようなことをどのように検討するのかについて記載します(図2)。
本研究では,大学生を対象に,街中で話しかけられる,あるいは,話しかけることが実際にどの程度生じているのか,そのような行為は,不快に捉えられているのかを明らかにしたうえで,話しかけられた,あるいは,話しかけたときに,どのような相互作用が行われているのかについて探索的に検討する。
図2. 「本研究の目的」の一例。仲嶺(2015)より引用。
「方法」で書く内容
「方法」では研究をどのような方法で行ったかについて原則として過去形で記載します。記載する内容は研究の手法(調査か実験かなど)によって多少異なりますが,読み手が研究を追試できる程度に詳細に書く必要があります。まったくの初心者が読んでも追試ができるというほどに詳細に書く必要はありませんが,その研究テーマの専門家が読まないと追試ができないというほどに省略して書くことも望ましくないです。適切な量と内容を記載するようにしましょう。詳細については付録として載せることもコンパクトにまとめる一つの方法です。
調査の場合
卒業論文で行われる調査としては質問紙調査か面接調査が多いと思います。質問紙調査でも面接調査でも「調査参加者」,「調査方法(実施年月,実施の仕方,実施時間,実施場所など)」,「測度」は最低限記載すべき内容と考えられます。
「調査参加者」に関しては,性別や年齢,対象集団,どのように調査参加者を集めたかなど,調査の対象となっている調査参加者がどのような人たちであるかがある程度分かるような情報を記載します。結果に影響を及ぼしうる情報についてはできる限り記載しておいた方がよいでしょう。ただし,「結果に影響を及ぼしうる特性」は無限にありえますので,必要最低限の記述を心がけてください。
「調査方法」に関しては,いつ頃に調査を行ったのか,どのように配布・実施・回収をしたのか,(分かるのであれば)おおよその実施時間はどれくらいだったのか,どのような場所で実施したのかなどを記載します。調査参加の同意を得た方法も記載するようにしてください。謝礼を渡したのであればそのことも記載した方がよいでしょう。ここでも,結果に影響を及ぼしうる情報についてはできる限り記載しておいた方がよいといえます。
「測度」に関しては,調査でどのようなことを尋ねたのかを記載します。面接調査であれば,どのような質問を尋ねたのかを記載します。質問紙調査で既存の心理尺度を使用した場合,項目を記載する必要はありませんが,その心理尺度が何項目で構成されどのような回答選択肢であったか(例,非常にあてはまる,あてはまる,どちらともいえない,あてはまらない,全くあてはまらないの5件法),その心理尺度で測定される概念の定義については記載するようにしてください。独自に心理尺度を作成して使用する場合,作成手順を明記し,その心理尺度の定義,すべての項目内容,回答選択肢,教示文を記載するようにしてください。調査で使用した質問紙は付録として載せることが望ましいです。
実験の場合
実験では「実験参加者」,「実験材料」,「実験方法(実施場所,実験日時,実施の仕方など)」,「実験計画・実験デザイン」,「測度」は最低限記載すべき内容と考えられます。
「実験参加者」,「実験方法」,「測度」に関しては調査のときと原則は同じです。
「実験材料」に関しては,実験で使用した装置や機材,実験刺激を記載します。装置や機材は製造会社名や型番なども記載します。実験刺激は読み手が同じものを作成できるように丁寧に記載します。文章で分かりにくい場合は図表を利用して説明するようにします。
「実験計画・実験デザイン」に関しては,要因や水準数,参加者内計画か参加者間計画か,独立変数や従属変数を記載します。他の箇所(たとえば,「実験方法」)の説明で明確に実験計画が分かる場合はあえて説明しなくてもよいです。
「結果」で書く内容
「結果」では,研究を実施したことで得られたデータについて記載します。その際に自分の「解釈」を記載するのではなく,データに関する「事実」を記載していきます。
書く内容や書き方の詳細は研究の内容によって違いますが,たとえば,質問紙調査であれば,記述統計量,相関係数,多変量解析の結果などを記載します。適宜,図や表を用いることで読み手が結果の内容を理解しやすくなります。文章だけでなく,図表を効果的に使うことを検討してください。ただし,図表はあくまで文章を補足するツールであることを忘れないようにしてください。すなわち,図表で示した結果は必ず文章中で言及する必要があります。文章中で言及しない図表は「結果」に載せられないので注意してください。
「考察」で書く内容
「考察」では研究の結果をもとに,何が分かったのか,分からなかったのか,今後の課題などについて記載します。
まずは,本研究の目的を改めて記載し,本研究の結果の要点を再記述します。そして,その結果からどういうことが分かったのか,先行研究と何が共通していて何が違うのか,なぜそのような結果になったのかなどを述べていきます。その後,本研究では分からなかったことや今後の課題,本研究の意義などを述べて考察をしめます。
「引用文献」「その他」で書く内容
「考察」の後には,卒業論文で引用した文献を「引用文献」にてリストアップします。読んだけれど引用していない文献は記載する必要がありません。あくまで本文中に引用した文献だけリストアップしてください。「引用文献」のあとには,「付録」や「謝辞」を記載します。
引用文献
卒業論文内で引用した論文や書籍のリストを作成します。書式は「日本心理学会 執筆・投稿の手引き」で確認して,必ずそれに従うようにしてください。本文中で引用した文献が「引用文献」に記載されているのはもちろんですが,「引用文献」に記載された文献はかならず本文中に引用されていなければなりません。つまり,本文と「引用文献」は必ず対応するようにしてください。
付録
本文中に入れると冗長になるため記載することができなかった情報(図表など)を記載します。質問紙調査の場合は,質問紙そのものもここに載せることが望まれます。ついでに言えば,GT表を載せるともっと望ましいです。付録に添付した内容は本文中で参照するようにしてください(たとえば,質問紙の詳細については付録1参照,のように)。
謝辞その他
執筆後の感想やお世話になった方への御礼などを述べます。研究にあたってご協力いただいた方への感謝の言葉を載せることも忘れないでください。指導教員は研究指導するのが当然ですので,指導教員への謝辞は不要です(ただし,先生によって考え方が違うと思うのでその研究室の方針に合わせてください)。
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