開催記録|【第2回】Constructing the subject(Danziger, 1990)を読む@オンライン
(2022.06.03のブログ記事を転載したものです)
先日、『Constructing the subject: Historical origins of psychological research』(Danziger, 1990)についてのオンラインによる読書会を企画いたしました。
企画の詳細についてはこちらをご覧ください。
第2回は、当初の予定を変更し、第6章と第8章について報告が行われたました。担当者の太田さん、大門さんにはこの場をお借りして御礼申し上げます。
各章の担当者から当日の発表の概要について頂戴しましたので、以下に記載いたします。
第2回読書会
参加者:11名
開催日時:2022年3月26日(土)
開催時刻:14時〜17時00分
第6章 Identifying the subject in psychological research
準備中
第8章 Investigative practice as a professional project
1920年代から30年代にかけての心理学。実験アプローチと統計手法を駆使しながら科学性と実用性を獲得していくことで、外部の社会制度や市場経済に適応していった。と同時に、自身の知や技術が「資源」として扱われるようになっていくことでもあった。それは心理学が専門性を確立する中で起きたことだが、まずは、アメリカの心理学界で専門家集団が結束しようと画策するところから話は始まる。
当時、アメリカの心理学者は外部の市場から、心理学の学問としての専門性を表明することが要請された。そこで彼らは、科学としての心理学の確立と市場のニーズへの対応を目指すべく、専門化プロジェクトを興した。心理学という共通のアイデンティティを持つ専門家集団を形成しようと試みたのである。とは言っても、実験主義者の基礎研究と、応用心理学者の応用研究との間には対立が生じていた。実験主義者は、物理学者と自分の仕事の類似性を唱え、普遍的な自然法則の発見のために実験を行う。が、応用心理学者は、自分の仕事と身近な社会問題や制度問題との関連性を強調する。両者の差異は扱うデータの違いにもあらわれていた。実験主義者は実験室の条件下で個々の被験者のデータを扱い、応用心理学者は統計的に集団データを扱う。
その折、ゴルトン流の統計アプローチの台頭を背景に、実験主義者が応用研究者に歩み寄っていった。ヴント以来の伝統的な実験アプローチにゴルトン流の統計的手法が組み込まれ、「ネオ・ゴルトン・スタイル」として基礎研究の応用化が進んだ。これにより心理学は、被験者個人の行動や経験に基づいて知識を主張することから、集団データから平均的な反応を予測することが目標になった。それは同時に、社会統制につながる行動の法則を発見する学問として心理学が社会に浸透していくことでもあった。心理法則の経験的根拠になるものは、生きた一個人の行動ではなく集団から集計した統計データ。心理学は統計的構築物である抽象的な個人を扱うようになり、そうすることで個人が心理学的なものから統計的なものに、心理学的な推論の問題が統計的な推論の問題にすり替わっていくのであった。
このような心理学事情は、アメリカとドイツの間で異なる様相を呈していた。アメリカの心理学者は、人間関係の管理に役立つ実用的な知識を提供することを重視し、そこに哲学的なこだわりはみられなかった。あくまでも計算された効率性と合理的なパフォーマンスを追求するのみ。ドイツでもまた、社会的統制の道具として心理学を使い、行政に貢献するために国勢調査で量的分析を行うことが心理学者の仕事であった。ただ彼らは心理学に対して別の忠誠心も持ち合わせていた。知的エリートの価値観として人文主義的伝統に基づいた哲学的目標の探求である。そこでは、人間を数値化するアプローチに対して嫌悪感も示された。このドイツ心理学の二重性は教育制度にも反映されていた。工科大学に技術系の学問である応用心理学を押し込めることで、純粋科学の心理学はそれ以外の大学の中で、汚れた産業界からの影響を受けないように保護されたのである。
心理学は外部環境に適応するために内部目標を変えていき、心理学内部の生産物が外部市場の発展を促していく。心理学の専門化の過程において、知識や技術は「資源」として扱われるが、まさにこの「資源」というものが本章では問題視されるのである。
(大門貴之により作成)
次回について
『Constructing the subject: Historical origins of psychological research』(Danziger, 1990)の読書会は今回で終わりです。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
次回は、7月23日(土)10時〜12時に研究会を開催予定です。詳細は決まり次第、ご連絡させていただきます。
ともに「心」について考えられることを楽しみにしています。