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オタク曼荼羅①

 Topsters 3というサービスを用いると、好きな音楽アルバムのジャケットを敷き詰めたオタク曼荼羅を作れる。

オタク曼荼羅

 このようになる。

 オタク曼荼羅の作成は楽しく、自己の嗜好に沿う遠い他者の創作物を列挙しているだけなのに、自画像を描いているような錯覚に陥る。それは傲慢な錯覚のように見えて、錯覚ではない。選好が自己に沿うというのは自己の過大評価で、むしろ選好に鋳られることを通じて、かろうじて形成されるのが自己だからだ。

 つまり、以下は自己紹介だ。

第50位 La Maschera Di Cera:La Maschera Di Cera

 曼荼羅から偶然はみ出してしまった。ゼロ年代イタリアになぜか勃興した70年代イタリアンプログレルネッサンス。伊プログレの美味しい部分を見事なまでにぎゅっと凝縮。それはプログレッシブな姿勢なのか。まさか。では、つまらないのか。まさか。
 あまりに心地良い揺りかごが、墓場の夢を幻視するオタクを乗せて揺れる。おれは当面降りる気はない。

第49位 たま:ひるね

 西洋ポップスの編成を守りながら換骨奪胎し、日本人の心象風景(と感じられるもの)を描くことに成功したのがたまだと思う。和魂洋才。怪しくロマンチックで切なく残酷でいなたく怖くてお茶目。月光に濡れる草のように艶めく滝本氏の声も、天使の溜め息のような知久氏の「鐘の歌」のラストも嘘のように美しい。
 東方ファンは聴いてくれ。知らないだけで、多分一番趣味に合うはずだから。ずっと言っているものの誰も聴いてくれないが。

第48位 George Harrison:All Things Must Pass

 どんなに明るい曲調でも、彼の歌声やギター、メロディにはどれも微かな影が差す。彼の敬虔な異教への信仰は、単なるオリエンタリズムではなく、所属する集団から自身がどうしても漏れ出てしまう、その寂しさの帰結だったのかもしれないと、今の目には映る。
 もう昔ほど頻繁にビートルズを聴かなくなっても、彼のソロにだけ幾度も後ろ髪を引かれるのは、その陰影や儚さがあまりに人生にしっくりと馴染む形状をしているということが、むしろ時の経つごとに分かってくるものだからだろう。

第47位 England:Garden Shed

 初期~中期ジェネシスをアク抜きしてキャッチーにしたのがこのバンドだと言えば、一言で済んでしまうのだが、それにしてもあまりに儚く優美で曲が良い。アレンジも最高。ネタは割れているのに傑作すぎる。ビル・ブルーフォードを意識したとしか思えないよく締まったスネアの甲高い音もまたオタクの心をくすぐるわけで。名曲のつるべ打ち。

第46位 Black Country, New Road:Ants From Up There

 アーケイド・ファイア不在(凋落)の心の穴をほとんど完璧に、しかし別の形で埋めてくれたのが彼ら。融通無碍な編成と問題意識、叙情性、華やかながら今にも折れそうな儚いヒロイズム。チェンバーの香り。しかもそこにボーカルがイアン・カーティス風という意外性。しかしそれが合っている。すれていないサウンドプロダクションなど、熟れきっていないところがまた魅力で、現代のVDGGにもなり得る器だったのだが、精神的な理由でボーカルがこのアルバムを最後に脱退。この1枚を言祝ぎ続けるしかないのか。

第45位 Kanye West:My Beautiful Dark Twisted Fantasy

 こんなのおれが紹介するまでもなくみんな聴いているでしょうが。
 キング・クリムゾンからボン・イヴェールまでを一またぎにサンプリングし、リリシズムと説得力で串刺しにしたこの1枚は、ヒップホップを高い壁の向こうの出来事だと思っていた2010年、あちらとこちらのあいだに太く確かな橋を架けた。今でも正直さして向こう側に用事があるわけではないのだが、なおその橋はびくともせず、赤く光り輝いている。「Runaway」、良い曲だよな。

第44位 Arti E Mestieri:Tilt

 イタリアンプログレ指折りの大傑作でありながら、中でもこのアルバムの特筆すべき点は、老若男女誰が聴いても良さが分かってもらえるであろう間口の広さではないだろうか。イタリアに対して我々がイメージそのままの溢れる叙情と色気、人懐っこいメロディ、反面に湛える神秘性。華やかで激しいが重くはない。しかし奥行きがある。プログレなんか何の興味もなくても、これは聴いてみる価値が大いにあると思う。本当に。

第43位 andymori:ファンファーレと熱狂

 当時はリバティーンズフォロワーのような言い方もされていたが、やっぱりサウンド面で決定的に異なるのはベースの雄弁さだと今になって思う。コスモポリタニズムと旅。何にも拘泥も依存もせず移ろう小山田壮平の軽やかな眼差しが、不意のスナップショットのように様々なものの最も美しい瞬間を保存する。何もかもが過ぎ去って、甘く苦い自由の匂いだけが残る。

第42位 Pennywise:From The Ashes

 パンクを云々語れるような見識があるわけでもなく、メロコアなどさらなりという感じなのだが、ペニーワイズだけは心を打ってやまない。彼らが背負ったベーシストの死という喪のせいなのだろうか、激しくとも影のあるメロディがどうしようもなくすばらしい。レディオヘッドがブッシュ米大統領を指弾した2003年、ペニーワイズはこのように異議を申し立てていた。

第41位 Stereolab:Emperor Tomato Ketchup

 ステレオラブの音に触れたのはごく最近のことなのだが、これには本当に打ち抜かれた。カンやノイ!といったドイツ勢からの影響が見て取れる、すっきりとして反復的な音像に、滲むのは甘やかなメロディ、しかも歌われるのは機能不全を起こし、目的と手段が入れ替わった強固なシステムに対する怒り。
 幾重にも折り重なったパラドキシカルな織物。その作り手が一対のスピーカー、音楽の最も象徴的な両極の探求を名乗ったことのあまりに周到な必然性。

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